花盛りの被験体
第一章
5



 と、その時、水穂が突然、つかつかと奈々子に近づいてきた。奈々子のすぐ目の前で足を止める。
「かわいい……」
 女教授は、裸にさせた教え子に向かって、脈絡なく、そう言った。
 突飛な言葉の次には、水穂の手が伸びて、奈々子の頬を、愛おしむように撫で始める。
 何の真似だろうか、上唇を捲り返すようなことまでするのだった。そのせいで、あどけなさの残る奈々子の美貌が、ひどく見苦しい表情に変えられていた。
 女教授と全裸の教え子との間に、禍々しいまでの卑猥な雰囲気が漂う。
 
 水穂は、指に付いた唾液を、奈々子の頬に擦りつけると、つと視線を下げた。奈々子の豊満な乳房を見つめる。
「いいわねえ……、二十歳の若さ。美しくって可憐で、嫉妬しちゃう。なんだか、憎たらしいわぁ」
 水穂は呟くように言いながら、出し抜けに、双方の乳房をぐっとつかんだ。
 奈々子は、息が止まり、全身が竦み上がった。
「うっ……、ぐっ……」
 水穂は、乳房に指をめり込ませた両手を、円を描くようにゆっくりと動かし始める。量感に富んだ奈々子の乳房は、ひしゃげたり横に歪んだりと、いやらしく形状を変えられていく。
 
 奈々子は、朦朧としてくる意識の中で、自分の胸をもてあそぶ女教授に対して、激しい憎悪を抱いていた。あれほど優秀だった高遠水穂に、こんな一面があったとは……。
 変態。その言葉が、心に浮かぶ。変態、変態、変態……。奈々子は心の内で、ひたすらにそう叫び続けた。
「あなたは、処女なの?」
 唐突に、おごそかな口調で問われる。
 奈々子は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 もういい加減にして、と奈々子は女教授を突き飛ばしたかった。どうしてわたしは、裸にさせられ、教授に胸を触られながら、処女かそうでないかを公言しなければならないのか。
 奈々子が黙っている間にも、水穂の両手は、間断なく乳房を揉み続けている。
「答えなさいよ」
 さながら詰問である。水穂の顔が、ひどく険悪になっていた。
 奈々子は観念した。嘆息して、口を開く。
「処女ではありません」
 すると、ゼミ生たちの間から、なぜか、がっかりしたような声が聞こえてきた。舌打ちする音まであった。

「つまらないわぁ、まったく。うぶな体じゃないのね」
 水穂は、非処女であることを咎めるように言い、右手を乳房から外した。その手が、奈々子の裸体の表面を下降していき、腹部を通って臍の下にまで達した。
 奈々子は、水穂が、どこを狙っているのか悟り、体を捻って逃れようとする。
「動かないで! また叩かれたいの!?」
 理不尽で痛烈な恫喝は、奈々子の精神を打ち砕き、女としての最低限の誇りすらも諦めさせた。
 案の定、水穂の右手は、陰毛の間を突っ切ってさらに下へと進む。
 ややあって、股間の裂け目に、中指が食い込んだ。
「はおぅ!」
 体の芯を不快な電流のようなものが流れ、思わず奈々子は声を漏らしていた。
 秘部へと差し込まれた中指が、ゆっくりと小さく前後に動き始める。
 奈々子は、身を裂かれるような恥辱に膝が震え、立っているのもやっとの状態だった。
 そんな奈々子の表情を、水穂は薄笑いを浮かべながら眺めている。
 やがて、おもむろに中指が抜かれ、水穂が、その右手を、緩慢な動作で目の高さにまで上げる。
 水穂の中指が、ほんの微かだが透明な液体で濡れているのを、奈々子も視認した。眼前の光景が、二重にぶれて見える。あまりに現実味が希薄だったからだ。
 しばらく水穂は、いやに真面目腐った表情で、愛液に濡れた中指に目を凝らしていた。そして、何かに納得したように首を上下に振ると、これ見よがしに中指をスーツの裾で拭き、視線を奈々子の顔に走らせた。
「恥ずかしがってるんじゃないわよ、この、淫乱女。……ほら、しっかりと気をつけ!」
 またもや水穂に喝を入れられる。
 奈々子は、背筋を伸ばして直立した。
 自分の姿が、とてつもなく惨めであることは、百も承知だった。だが、ひたすら、この永遠にも感じられる生き地獄に耐え続けるしかなかったのだ。

 その時、突然、理香の声が部屋に響いた。
「ちょっと由美。なんで俯いてんのよ……。ぜんぜん授業に参加してないじゃない」
「え? そんな……。わたし……」
 狼狽する由美を見た理香が、畳みかける。
「一度こっちに来て、奈々子の体をちゃんと観察しなさいよー」
 理香は、由美の二の腕をつかむと、その小柄で華奢な体を引っ張って、奈々子のすぐそばまで連れてくる。
 由美は、へどもどしながら奈々子の顔を一瞥した。由美の眼差しには、奈々子に対する深い哀れみの色があった。
 奈々子は、居たたまれない思いに押し潰されそうになり、思わず目を逸らした。
「ほらぁ、しっかりと、体を見るのお」
 由美もまた、気まずそうに床に目を落としていたのだが、理香が強要する。
 理香に逆らえない由美は、奈々子の裸体に目を向けた。自分の姉のような友達の裸を目にしている、と強く意識したのか、由美のほっぺたが、瞬く間に紅潮していく。
 奈々子にとっては、由美の視線がなによりつらい。その心理を、理香はちゃんと見抜いているらしかった。要するに、由美を利用して、奈々子により強烈な苦痛を与えようと思いついたのだ。
 露わにさせられた乳首や陰毛の上を、由美の視線が、じりじりとなぞっている。
 奈々子は、腰の横に手を据えたまま、それを必死に耐え抜いた。
 その間、理香は、ほくそ笑みながら奈々子の表情を眺めているのだった。



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