花盛りの被験体
第三章
1



 高遠水穂は、陰毛を収めるのに使用したのと同じ、チャック付きのビニール袋を五枚、また戸棚から取り出した。今度は、それに加えて、プラスチックのスプーンも一本手に持つ。
「最後の実験を行いますよ、みなさん……。何をするのかというと、性器から分泌される粘液の採取です」
 水穂は、ゼミ生たちの反応に期待するような眼差しで宣言した。彼女の見込んだ通り、女子学生の間で嬉しげなざわめきが起こる。

「桜木さん、用意はいいかしら?」
 桜木奈々子は、未だに、下着を身に着けることはおろか、体勢を変えることすらも許されないでいた。
 水穂は、奈々子に歩み寄ると、四つん這いの臀部の下に覗く、ぷっくりとした性器に、突然、手をきつく押し当てた。性器の全体が、文字通り女教授の手中に収められている。
「……ここにスプーンを突っ込んで、あなたの愛液を掻き出すわよ」
 水穂は、声のトーンを落として奈々子の背中に囁きかける。もはや脅し以外の何物でもない。
 しかし、水穂の言葉は耳に入っていても、奈々子には、もう拒む気力さえ残されていなかった。
「もう、奈々子は目が死んでますよ。魂が抜けちゃったみたいな顔してるんです」
 瞳が、つまらなそうに伝える。
 水穂は眉をひそめ、何かを思案するような仕草を見せる。だが、ほどなく、何度か小さく頷いた。
「授業中なのに、ぼけっとしてちゃ駄目でしょう、桜木さん。でもね……、今にまた、覚醒させてあげるわよ」
 水穂は、意味深な言葉を吐いた。奈々子の無反応ぶりが面白くないのか、奈々子の股間に宛がった手を荒っぽく前後に数回動かし、性器の肉を揺する。
 その水穂の冷たい眼差しが、椅子に座っている村野由美に向けられた。由美は、その視線に気づき、不安と戸惑いの混じった表情になる。たった今、奈々子の性器と触れ合っていた水穂の掌が、由美の華奢な肩に置かれた。
「村野さん。粘液の採取をやってくれますか? 方法は、膣の中から粘液をスプーンですくって、ビニールの袋に垂らすの。五人分をね」
 その行為は、これまでの幾つもの悪行の中でも、奈々子の尊厳をもっとも傷つけるものである。水穂はそれを、事もあろうに、由美にやらせようというのだ。
 
 由美は、水穂を見上げ、体温計の時と同様、弱々しく首を振った。
「どうして? 村野さんは、授業に協力できないの?」
 その声には、強い咎めの響きが含まれていた。今度は冗談ではなく本気らしい。
 由美は怯えを見せ始めていたが、水穂は、構わずに話を続ける。
「でもね……。桜木さんの性器は、まったく濡れてない状態なのよ。採取したくても、粘液が分泌されてないんじゃあ、どうしようもないでしょう。それに、いきなり膣に物を入れたら、この子に痛い思うをさせてしまうし……」
 そこまで言うと、水穂の鋭い横目が由美に向けられた。
「村野さんが、この子の粘液を分泌させなさい。どういう意味か、わかるでしょう?」
 由美の表情が、徐々に凍りついていく。見開いた目で、前方、奈々子の股間を初めて直視していた。



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