堕ちた女体と
華やかな晩餐
第二章
3



「千尋ちゃん。これから、あなたの適性検査を始めるからね。心の準備はできてる?」
 汚れたパンツの検分に気が済んだらしい亜希は、愉快そうに言った。
 千尋は、ごくりと生唾を飲み込んだ。こっちは全裸にまでなっているというのに、まだ、物足りないというのか。というより、むしろ、これからが本番だということを告げられているのだ。亜希の言う『適性検査』の、底の知れない怖ろしさに、ほとんど絶望的な気持ちになる。
 しかし、拒否権のない千尋は、必ずイエスと返事をしなくてはならない。加納の射るような厳しい視線を、ひしひしと感じるのだ。いつからか、スーツ姿の使用人の存在が、千尋にとって大きな脅威となっていた。
「……はい」
 千尋は、かすれる声で、いかがわしい『検査』を受けることを承諾した。
「加納さん。千尋ちゃんの適性検査をお願いしまーす」
 亜希は、ひときわ明るい声音で言った。
「はい。了解しました」
 加納は、亜希に対してかしこまると、千尋のほうへ、ずかずかとやってくる。背が高く、いかめしい顔をした加納は、まるで鬼教官とでもいう風情だった。千尋は、まともに目を合わすことすらできない。
 加納からしたら、自分より十歳以上、年下の少女が、全裸で乳首と性器を両手で隠しているのだ。普通であれば、同じ女として、その痛ましさに胸を痛めるような状況だろう。しかし加納は、少しの容赦もしないとでもいうような目つきで、千尋を見下ろしているのだった。

「両手を腰に付けろ」
 加納が、言葉少なに命じた。
 千尋は、どきりとして、おずおずと加納の顔を見上げる。
「え、え……。あ、あのう……」
 舌がもつれて、まったく言葉にならない。
「こうするんだよ!」
 加納は、いきなり千尋の両腕を引っつかむと、いったん強引に胴体から離してから、腰の両脇に、ぴしゃりと両手を当てさせた。
「ひうっ……」と、千尋の喉元から、空気の漏れるような声が出る。
「ほら! まずは、お嬢さまに、おまえの体をしっかりと見てもらえ」
 加納はそう言って、千尋の背中を邪険に押した。勢いよく押されたために、どたばたと脚が前に送り出され、テーブルで膝頭をしたたかに打った。
 痛い……。だが、痛みを感じている余裕もない。今、千尋は、目まいのするような恥ずかしさに、精神も肉体も押し潰されそうになっていた。
「もじもじしてるんじゃないよ! ちゃんと背筋を伸ばせ!」
 羞恥心に体を縮こまらせる千尋に、加納は、情け容赦なく怒鳴り声を浴びせる。
 千尋は、徐々に背筋を伸ばしていき、直立に近い姿勢を取った。腰に宛がっている両手に、どうしても力が入り、おしりの肉を強くつかんでいた。
 
 今まさに、完全に無防備な格好で、乳房や陰毛を亜希の視線に晒しているのだ。呼吸がひどく浅くなっている。視界がぼんやりと霞み始め、意識が遠のきそうだった。
「千尋ちゃんの胸って、綺麗な形してるねえ。まん丸い果物みたい。でも、大きさなら、わたしのほうが勝ってるかなあ」
 亜希は、身を乗りだし、千尋の裸体を品定めする。乳房が終わると、亜希の視線が下がっていくのを感じた。当然ながら、その視線は、千尋の下腹部に留まった。
 両手に一層力が入り、おしりに爪を立てていた。恥部を隠すことすら許されない自分の立場が、惨めで惨めでたまらなかった。
 乳房よりもずっと長く、そしてひどく無遠慮に、亜希は、そこを凝視している。陰毛の濃さや、その奥に覗く、縦の筋を観察されているのだろうか、などという嫌な思いが、脳裏をよぎる。

 ようやく、亜希は満足げに何度か頷くと、加納に向けて目顔で合図を送った。加納は、了解を示すように顎を引くと、俊敏な動作で、千尋の正面に移動した。
 なにをされるのだろう。千尋は、びくびくしながら、背の高い使用人の顔を窺う。加納は、ぞっとするほど冷たい双眸で、千尋を見下ろしていた。
 白い袖の両手が脈絡なく伸びてきて、千尋の肉体にかぶりついた。
「いやっ!」
 金切り声の悲鳴を上げた千尋は、体を弓なりに反り返らせていた。今、加納の両手に乳房が捕らえられ、その指が、肉にめり込んでいるのだった。
 辱めるというより、なぶるような乱暴な手つきで、乳房が揉み潰された。指の圧力は凄まじく、指と指の間から肉がはみ出している。加納が、あまりにも荒々しく手を動かすので、千尋は、幾度もよろめくことになった。
 きつく乳房がつかまれるたび、女としての大切な何かを奪われていくような思いがした。大きな恐怖感が、徐々に、身を裂かれるような悲しみへと変わっていく。
 あんたは、わたしに何かの恨みでもあるの……。千尋は、そう問いかける目で、加納の顔を見やった。
 加納は、千尋の視線に気づいても、眉一つ動かさない。何の感情も持ち合わせていないような、その表情。
 しかし、乳房をなぶる両手の動きには、変化があった。突然、乳房の上部を、きつく絞り上げてきたのだ。ピンク色の乳首が、見るも無惨にみるみるとせり出していく。
「ああぃ……!」
 千尋は、たまらず声を上げた。乳房の先端の、ずきずきとした鋭い痛みが、加速度的に増していく。
「やめて下さい! いたい、いたいです!」
 千尋は、身をよじりながら哀願した。
 それを聞き入れたのか、ふいに加納の手の力が緩んだ。だが今度は、その指が、双方の乳首にピンポイントに接触した。
 加納は、千尋の性感帯を指で挟むと、こね回すようにこすり始めるのだった。今しがた、激痛に見舞われた乳首が、おぞましくも、同性による愛撫を受けているのだ。
 ぞっとして、全身にびっしりと鳥肌が立った。
 頭の中が混乱の極致に陥ったため、抑えていた感情が、ほとばしった感じがした。
 目から、生温かいものが流れだし、頬を伝う。
 今、千尋の乳首は、前に引き伸ばされているところだった。加納は、千尋が涙しているのを認めると、手を離して、亜希のほうに半身を向けた。
「お嬢さま……。この子、泣いてしまいましたよ」
 亜希は、ぽかんと口を開け、千尋を眺めた。
「千尋ちゃん、悲しいの……? でも、これは働く前の検査で、仕方のないことだから、つらくても頑張ってね?」
 そう言った亜希が、そのすぐ後、下を向いて笑いを堪えるような仕草をしているのが見えた。
 
 千尋は、鼻を啜り上げた。わたしの馬鹿……。なんで涙なんか。余計に惨めになるだけなのに……。腕で、ぐっと目を拭う。
 その時、ふいに、乳房を両手で強く押し上げられた。
「ふうっ!」
 油断していた千尋は、気張ったような、無様な声を発していた。
「胸は合格だ。これから、おまえのここを検査する」
 加納の右手がすっと下り、その人差し指が、千尋の肌にぴたりと触れた。そこは、臍の下、わずかに肉が盛り上がったところ、ちょうど陰毛の生え際のあたりだった。
 心胆を寒からしめられる宣告に、全身が硬直する。泣きついて許しを乞いたかったが、イエスと答えるしか選択肢のないのが、今の千尋の立場なのだ。
「……はい」
 
 加納は、軽やかな動作で、立て膝の体勢になった。千尋の陰毛の茂みと、加納の目の高さが同じになる。
 加納は、太ももの外側を、がしっと両手で押さえつける。そうして、顔を、陰毛の毛先に触れるか触れないかのところにまで寄せてきた。だが、すぐに顔を離し、苦々しい表情になった。
「しっかし、ひどい臭いだね……。おまえ、あの汚れた下着と同じで、一昨日から風呂に入ってないだろ?」
 加納は、侮蔑の目つきで、千尋の顔を見上げながら言った。
 無防備な体勢で、性器の臭いを嗅がれた上に、自尊心を深く傷つけられるようなことを訊かれても、イエス、なのだ。
「……はい」
 それを聞いた亜希が、はしゃいで笑った。
「千尋ちゃんったら、お風呂にも入れなかったのおー? きったなぁーい」
 パンツの汚れや体の不潔さといったものを、千尋の凋落の象徴と捉え、ことさら愉しんでいるようだった。
 
 加納が、右手の親指を恥丘の肉に押しつけてきた。
「おまえ、恥垢も、だいぶ溜まってるんじゃないのお?」
 そう言いながら、恥丘の肉を吊り上げたり戻したりを繰り返し始める。それに合わせ、性器の裂け目がぐいぐいと上部に引っ張られ、陰唇やクリ○リスが見え隠れした。
 女の聖域ともいうべきところを、平然ともてあそぶ同性の仕打ちに、千尋は、脳髄が痺れるようなショックを感じていた。わたしは、今、悪い夢でも、見ているのではないだろうか……。



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