堕ちた女体と
華やかな晩餐
第三章
3



 亜希に裸身を押されて進んでいくと、執行場所はすぐにわかった。美容室にあるシャンプー台と同じようなものが、壁際に設置されていた。
「千尋ちゃん、ここに座って」
 流し台の前にある、黒い革張りの椅子に座らされると、衣類を何も身に着けていないことに、ひどく落ち着かない心地になる。千尋は、さり気なく乳首と性器を手で覆った。
「加納さん。あとは、よろしくねっ」
「任せて下さい」
 加納は、千尋に精神的圧力を掛けるかのように、スリッパの音を大きく響かせながら、こちらへやって来る。
 亜希はといえば、どこからか小振りの木製の椅子を持ってきて、そこに腰かけた。見せ物を見物するような風情である。
 
 加納が、ふっと失笑して言う。
「おまえの往生際の悪さには呆れるよ。その体は、もう、余すところ無く見られたっていうのに、まだ隠していたいの? 恥ずかしい両方の穴まで、見られたっていうのにねえ」
 今の千尋にとって、もっとも言われたくない内容の言葉だった。
「でも、その堂々としていない態度は、お嬢さまに対して失礼よ……。両手を、肘掛けの上にのせておきなさい」
 もはや、理屈もへったくれもない。
 それでも、千尋は、黙って両腕を肘掛けにのせ、無防備な格好で、じっと耐えることになった。
 すると突然、千尋を見下ろす加納の口もとから、薄気味の悪い笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ、ふふふ……。苦労知らずの千尋お嬢さまが、こんな姿になって……。ねえ、今までの生活から、こんな自分の姿を想像できた? ねえ、どう? 地獄に落ちた気分なんじゃない?」
 寒気のするような物言いに、千尋は、思わず加納を見上げた。
 加納は、口もとを手で覆って笑っており、その目つきは、ぎらぎらと光っていた。これまで、『適性検査』の時も、あくまで加納は、亜希の指示に、事務的に従っているという感じだったが、内心は、そうではないようだ。千尋の凋落を、狂喜乱舞せんばかりに喜んでいるらしいことが、見て取れる。そのことを悟った千尋は、言い様のない不安に駆られた。
 
 ところが、加納の目つきが、急に一変した。怒りか、あるいは憎しみのようなものが、その両眼に宿ったのだ。
 それに気づき、ぎくりとした次の瞬間には、加納の手が、千尋の顔面まで迫っていた。勢いよく頬をつかまれ、唇がすぼめられる。
「ふぎゅっ……」
「わたし、前からねえ、おまえの偉そうな態度が、気に入らなかったのよ。ぺこぺこしてやりゃあ、調子に乗っちゃって……。おまえ、内心では、わたしのことを、ただの使用人だとか思って、見下してただろう……?」
 加納はそう言うと、千尋の頭部を、椅子の背もたれにぐりぐりと押しつけ、手を離した。
「そんなっ、そんなことないです……。いい人だって思ってました」
 千尋は、何度も首を横に振ったが、加納は鼻で笑う。
「おまえ、さっき、わたしに対して、使用人のくせに、その口の利き方はなんだ、とか言ってくれたよね?」
 先程、誠実な態度だった加納が豹変し、千尋に対して、裸になれという意味の言葉を吐いた時の話だろう。たしかに千尋は、怒り心頭に発して、そんなふうに言い返していた。
 千尋は、言葉に詰まってしまった。
「まあ、いいわよ。おまえはもう、ちやほやされるような人間じゃあ、ないんだしね。下っ端として働きながら、自分の立場を、身をもって学んでいくといい。まずは、その髪の毛を、真っ黒に染めないとね」
 加納は、勝ち誇った表情で言うと、なにやら、千尋の下腹部へと視線を向けた。と、その直後、いきなり、加納の指先が、下腹部の茂みに突っ込まれた。
「えっ! いやっ!」
 反射的に体を丸め、千尋は、両手で恥部の中央を押さえていた。加納の右手と千尋の両手が、陰毛の中でせめぎ合っている。
「なんの真似よ、これ? おまえは、何をされても抵抗するべきじゃないの。今すぐ両手をどかしなさい」
 加納の言葉にびくつきながらも、千尋は、性器を守っている手をどかすことはしなかった。
「えっ……。でも、やめてください」
 とたんに、加納の顔に、怒りの影が走る。
「言われたとおりにするんだよ!」
 耳をつんざく怒号と共に、剥き出しの太ももに手を打ち下ろされる。衝撃と痛みで、全身が跳ね上がった。千尋の雪のように白い肌に、赤い腫れの色が、瞬く間に広がっていく。
 
 またしても、加納の非道な暴力により、千尋の気持ちは圧殺されることとなった。おそるおそるガードを解くと、加納は、陰毛をつかんで引っ張り上げた。
「髪の色も、ここの毛と同じように真っ黒にしてやるからね」
 その毒々しい言葉に、千尋は、どこまでも自分が貶められていくような思いがした。



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