堕ちた女体と
華やかな晩餐
第四章
1



 三人は、亜希の自室に戻っていた。
 髪の染色と断髪により変わり果てた千尋は、未だに裸で立たされている。もはや、心も体も限界を超えていて、立っていることすらつらかった。
 今日、千尋の人生は、出口の見えない地獄へと変わった。明日が、どのような一日になるのかも、想像が付かない。
 しかし、今、千尋の頭の中にあるのは、人間として、もっとも単純な欲求だけだった。大小の排泄と睡眠。
 禍々しく置かれている水槽大のガラスケースに、千尋は目をやった。打ち震えるような悲しみに心臓を締めつけられ、意を決して口を開く。
「亜希ちゃん。……たった一つのお願いです。家のトイレを、使わせてください」
 ソファにもたれている亜希は、きょとんとした目つきで千尋を眺める。だが、その唇が、薄笑いの形に変わっていった。
「したいんでしょ、千尋ちゃん。もう我慢できないの?」
 もはや、申し訳なさそうに、本当のことを答えるしかない。
「はい……。お願いします」
「しなよっ……。あの入れ物が、千尋ちゃんのトイレだよ。恥ずかしいなら、あれを部屋の隅っこに持っていって、隠れてしたって、構わないのよ」
 この腐りきった小娘に、わずかでも情けを期待した自分が、馬鹿だったみたいだ。万策尽きた思いで、千尋は黙ってうなだれた。

「まだ納得できないみたいねえ、千尋ちゃんったら。なんなら、考え直してあげてもいいけど……」
 亜希は、ずいと上体を乗り出し、上目遣いに千尋を見る。
「もう一度、千尋ちゃんの体を、隅々まで検査することにしようかぁ? 加納さんの出した裁定が不服ってことなら、今度は、わたしが直々に調べてあげる……。うちのトイレを使わせてあげられるぐらい、マ○コやおしりの穴が、清潔かどうかをね」
 果たして、これほどまでに、いやらしい笑みを浮かべる人間が、この世にいるだろうか。亜希の顔を見ていると、そんなふうに思わされる。
「千尋……、再検査してもらいたいなら、お嬢さまに頭を下げてお願いしなさい」
 亜希のかたわらに立つ加納が、そう言った。
 
 途方に暮れ、言葉を失った千尋の様子に、亜希は、ことさら快感そうな声を出した。
「どうするのぉ? 千尋ちゃーん」
 答えることなど馬鹿らしい。だが、黙っていると、加納に、怒鳴り声を上げる理由を与えてしまう。
「……それなら、もういいです」
 再検査など、どうせまた、不潔な体という烙印を押されるだけである。それに……。千尋は想像した。恥ずかしく汚いところを、亜希の手によって調べられるとしたら、その恥辱は、加納の時より、はるかに耐え難いだろう。

「あっそ。じゃあ、おしっこやうんちは、そこにしなさいね。我慢してないで、早く出しちゃったら? 言っとくけど、お漏らしなんてしたら、さすがに千尋ちゃんでも、わたし承知しないからね」
「千尋……。あんた、お嬢さまのお部屋を、万が一でも汚すようなことがあれば、一生奴隷のようにこの家で働いて、償っていかなくちゃならないからね」
「はい、……わかってます」
 そう返事をしたものの、尿意は、意識から消えないほどに高まっている。千尋は、先行きの暗さに、気が遠くなりそうだった。



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