堕ちた女体と
華やかな晩餐
第四章
5



 微かに亜希の寝息が聞こえてくる。
 今日、自分のことを、散々もてあそんだ相手が、気持ちよさそうに寝ている気配は、不愉快だった。だが同時に、千尋が待っていた時でもある。
 
 千尋は、タオルケットから出ると、ガラスの容器に跨った。明日の朝、容器の底に溜まったものを見られるとしても、放尿の瞬間だけは見せたくなかった。そのため、亜希が寝静まるのを待っていたのだ。便意もあるが、出したものが、そのままの形で残ることを考えると、とてもすることはできない。
 はらわたの千切れるような屈辱だったが、千尋は、小便を出し始めた。
 暗順応した目は、部屋にある大体のものの輪郭を、見分けることができた。黄色い液体が、容器のガラスに勢いよく当たり、音が鳴っている。なんともやり切れない思いで、千尋は、その音を聞いていた。
 
 その時だった。千尋の耳に、ベッドから、くすくすと笑う声が飛び込んできたのだ。ぞっとして、全身が凍りついた。
 亜希が寝付くのを待って千尋は小便をする。それを亜希は予想しており、寝たふりをしていたらしかった。
 嘲笑われているとわかっても、溜まりに溜まってほとばしる尿を、止めることはできない。恥辱に脚がぶるぶると震え、知らず知らずのうちに、千尋は涙を流していた。気が触れるほど惨めな気持ちだった。
 最後まで出し切ると、拘束されている両手をなんとか動かし、性器を拭った。あまりにも情けない……。悔しさに涙をこぼしながら、便器から離れて横たわり、タオルケットにくるまる。
 
 この日の夜、この家で、千尋は、社長令嬢という身分から切り離された現実を、思い知らされたばかりではなく、最低限の人権すら、持つことの叶わない人間と成り果てた。
 もはや、嗚咽を抑えることもできない千尋の泣き声と、ベッドの上から起こる、亜希の愉快そうな笑い声とが、おどろおどろしい不協和音となって、響き続けていた。



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