堕ちた女体と
華やかな晩餐
第五章
4



 もはや、逃げ道はどこにもなかった。千尋は、ドアノブを回し、おずおずとドアを押していった。極めてゆっくり、裸の体を見られる瞬間を、一秒でも先送りしたいというような気持ちで。
 男性アイドルグループの歌声が、耳に飛び込んでくる。そして、二人の喋り声。リビングの中は廊下よりもずっと明るく、眩しいと感じた。
 広大なリビングに、大小二台のテーブルが置かれていて、どちらにも白いテーブルクロスが掛けられている。大きいほうのテーブルにだけ、色とりどりの料理が載せられていた。それは、以前の千尋の感覚からしても、華やかな晩餐に映る。
 
 奥にあるソファに、亜希たちが揃ってだらしなく腰掛けていた。
 千尋は、二人のほうへと、そろそろと脚を送り出していく。後ろから、お目付役の加納が、一定の距離を置いて付いてきていた。
 いよいよ対面である。
 亜希が、千尋の姿を認めた。
「あっ。千尋ちゃあん。待ってたよー」
 当然、もう一人の女の子も、千尋に目を向ける。
 この瞬間。
 赤の他人に、一糸まとわぬ体を見られる屈辱。加納に監視されているので、胸や性器を視線から守ることもできない。
 
 朱美という子は、目鼻立ちがずいぶんとはっきりしており、そのためか、亜希よりずっと大人っぽく見えた。髪の毛は、肩下まで無造作な感じに下ろしている。髪を染めているわけでもなく、髪の量は、野暮ったい印象を受けるくらい多いため、ヘアスタイルには、それほど気を遣っていないようだった。
 その朱美の大きな目が、千尋の裸の体を、何の憚りもなく無遠慮に観察しているのがわかる。そして、千尋の顔にも、じっと目を向ける。同じ十代の女の子の全裸を目の当たりにした朱美は、馬鹿にするでもなく、むしろ、怪訝そうな顔をしていた。このひとは、恥ずかしくないのかな、とでも言うような顔をしているのだ。たちまち、自分の顔が紅潮してしまうのを、千尋は感じた。
 
 亜希が、リモコンを操作して、ステレオから流れるJポップを消して言う。
「こっちに来て、千尋ちゃん。朱美ちゃんも、ほら、立って」
 亜希が朱美を促し、二人はテーブルの椅子に着いた。
 だが、豪勢な料理の載っている大きいテーブルではなく、小さいほうだった。そのことに、千尋は、強い違和感を抱いた。なぜかは、自分でもわからない。恥辱に晒され続け、何事にも敏感になっている自分の意識が、漠然とした何かを捉えたのだ。



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