堕ちた女体と
華やかな晩餐
第六章
4



 その時、おしりの肉を押し上げる加納の手が離れた。
 それに気づき、おや、という思いが脳裏をよぎった、次の瞬間。
 千尋の股間を、衝撃と鈍痛が襲った。下から打ち付けるようにして、性器を鷲づかみにされたのだった。性器全体が強く圧迫され、デリケートな部分に指がめり込んでいる感触があった。
 脳の神経の一部が、ぷつりと飛んだ感じがした。
「ひいああぁぁ……!」
 宙を見上げながら、千尋は絶叫した。
 それでも容赦なく、加納は、股間に掛けた手で、千尋の体全体を引き上げようとする。性器が、苛烈な圧迫と激しい摩擦を受け、千尋は、たまらなくなって自らテーブルによじのぼった。
 この女はどこまで非道なんだ……。わたしが上がるのを拒んでいるからといって、女の子の聖域に手を掛けて、押し上げようとするなんて。
 
 テーブルの上で、横座りの姿勢になった千尋は振り返り、加納に抗議の目を向けた。
「どうしたの、千尋。まったく、もたもたしちゃって。お嬢さまや朱美さまを、お待たせてしたら駄目でしょう」
 加納は、素知らぬ顔で言った。その態度もまた、朱美の手前だからだろう。
 だが、朱美は、加納の千尋に対する暴虐ぶり目の当たりにし、不穏なものを感じ取っている様子だった。ちらちらと横目で千尋を見ながら、亜希に向かって言う。
「亜希ちゃん。ねえ、もしかして、この人、ものすごい嫌がってる……?」
 亜希の顔に、戸惑いの色が浮かぶ。
「ちがっ、ちがうって、朱美ちゃん。千尋ちゃんは嫌がってるんじゃなく、ちょっと緊張してるだけで……」
 頭の回らない亜希に、加納が助け船を出した。
「朱美さま、ごめんなさい。見苦しいところを見せてしまって。お客様を愉しませるのは、この子の仕事なんですよ。自分でも、それをわかっているはずなんです。ただ今回は、朱美さまが、まだお若いので、ちょっと恥ずかしがってるだけだと思います。でも、恥じらいを見せるほうが、なんとなく、風情があると思いません? ですから、朱美さまには、何も気にせずに愉しんで頂ければ、と」
「はあ……」
 朱美は、あふやな返事をし、千尋のことを見やる。絶対にこんなふうにだけは、なりたくない、という軽蔑の目つきをしている。亜希のようにサディスティックでもなく、かといって、千尋を庇う気など、さらさらない。要するに、朱美の反応は、普通の女の子のそれなのだ。しかし、そんな少女の軽蔑の視線を受けるのは、千尋にとって、露骨な嘲笑を浴びるのと同等か、むしろ、それ以上に耐え難いことだった。
 千尋は、俯いたまま顔を上げることができなかった。

「どうしたの、千尋。座るためにテーブルに上がったんじゃないでしょう。ほら、次は、どうするんだっけ?」
 加納が、千尋をせき立てる。口調は柔らかだが、言っている内容は、怒鳴り声を上げる時のものと、なんら変わりはない。
 千尋は、そろそろと立ち上がった。
 一歩脚を動かすと、もう、そこには、亜希と朱美の間に置かれた、ガラスの容器がある。信じられない思いでくらりと目眩がし、脚がふらついた。下唇をぎゅっと噛んで感情を押し殺し、股を開いていく。
 亜希が頬を膨らませ、笑いを堪えているのがわかる。朱美は、ぽかんと口を開けている。世間には、人前で、こんなことまでする人間がいるのかと、半ば呆れているような表情である。そして、朱美の目は、徐々に形状や色などが露わになっていく、千尋の局部をも、しっかりと捉えていた。
 
 千尋は、両脚で容器を挟む格好になった。斜めに突っ張った両脚のバランスが、緊張の震えのせいもあって、妙に頼りなく感じる。安定した体勢を求めるように腰を下げていく。
 太ももの裏が容器の縁にぶつかる。とうとう、千尋は『便器』に跨った。両手のやり場がないので、ぎゅっと容器の縁をつかんだ。
 すぐ下から昇ってくる臭気が、鼻を突く。今も、その臭いを亜希と朱美にも嗅がれているのだ。それを思うと、もはや、女として、いや人間としての尊厳など、保てるはずがない気持ちになる。



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