堕ちた女体と
華やかな晩餐
第六章
6



 亜希が席を立ち、タオルを取ってきた。
「ワイングラスをちょうだい。そっとね……」
 もはや、千尋は唯々諾々と従い、大事なものを捧げるように尿の入ったグラスを差し出した。
 亜希は、それを直に触らないようにタオルでくるみ、料理や食器類の載った大きなテーブルのほうに歩いていった。
 
 精神的にも肉体的にも、ひどく疲れていた。何も考えられないし、体は、脱力したように動かない。長距離を走り終えた直後のような、自分の荒い息遣いを、千尋は、ただ聞いていた。
 加納が、別のタオルを千尋に突きだした。
「千尋、これで拭きなさい……。ぼけっとしてるんじゃないよ。朱美さまの前に、ひどい臭いのする、おまえの便器を、いつまでも置いておいていいわけがないでしょう?」
 千尋は、タオルを受け取ると、小便でびしょびしょになった右腕と、性器を拭った。
 加納は、そのタオルを取って容器に落とした。タオルは、数回分の小便に浸った。加納が、容器を後ろに引いたので、千尋は、慌てて立ち上がる。

「申し訳ございませんでした、朱美さま。お食事の前だというのに、こんな汚いものを、目の前に出してしまって……。ひどい臭いですし、ご気分など、悪くなってはおりませんか?」
「あっ……、けっこう参りましたけど、気分のほうは、平気です」
 朱美は、曖昧に頷いた。加納は、軽く頭を下げ、ガラスの容器を両手に持って、リビングの外に出て行った。
 
 テーブルの上で突っ立ったまま、どうすることもできない千尋は、ぼんやりと大きなテーブルのほうを見ていた。
 豪勢な料理の脇で、亜希が、なにやらタオルにくるんだグラスの中の液体、千尋の尿を、そばに置いた新たな三つのワイングラスに注いでいる。それで乾杯をするとか、先程言っていた。
 これほどまでに悪趣味な行為が、許されてよいのだろうか、と千尋は思う。いつの日か、亜希が、何らかの形で報いを受ける時は、やって来るだろうか。そんな時は、きっと永久に来るまい。この小娘は、菅野家という強大なバリアによって、どこまでも手厚く保護されているからだ。
 誰に何をしようとも、人生が危機に晒されることもなく、人の何倍も幸福な将来が約束されている。理不尽だ、と今更ながら千尋は感じる。
 
 加納が、戻ってきて言った。
「千尋。さっき、お嬢さまから聞いたでしょ。今夜の女体盛りに、おまえの体を使って頂けるんだよ。こんなに光栄なことはないはずよ。さあ、そろそろ始めるから、そこに仰向けになりなさい」
「……はい」
 千尋は、消え入るような声で返事をし、その場に膝をついた。ゆっくりと体を反転し、仰向けに横たわる。わざわざ、小さなテーブルを用意したのは、千尋の体へ、箸やフォークを伸ばしやすいからだったのだ。

「料理を載せますので、この子の体の表面を、ざっと消毒させて頂きますね」
 加納は、朱美にそう言うと、千尋には何の断りもなく、消毒液を染み込ませたタオルで、体を拭き始めた。可憐な十代の素肌を、ぞんざいな手つきで。乳房や性器など、女の恥じらいの部分も、無遠慮にごしごしとこすられる。
 それを終えると、加納は言った。
「お嬢さまとわたしで支度を致しますので、朱美さまは、寛いでお待ち下さい。よろしければ、食べ物を載せる器となる、この子の体の肌触りなんかを、お確かめになっていては如何でしょう?」
 加納は、人当たりの良さそうな笑顔を朱美に向ける。以前ならば、千尋にも向けられていた顔だ。
「あ……、あ、はい」
 朱美は、曖昧に頭を下げた。



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