堕ちた女体と
華やかな晩餐
第六章
7



 女として、いや人間としての誇りが失われるというのは、このような境地に至ることなのかもしれない。今、年下の少女が、全裸の自分のことを、文字通り見下している。だが、恥ずかしさや屈辱感といったものを、それほど強く感じないのだ。強制的に放尿させられた瞬間、自分の中の、ある種の限界を超えてしまい、心のヒューズが飛んでしまったのかもしれない。

「ねえ」
 朱美に呼ばれた。無機質な声音だった。
 千尋は、黒目だけ動かして、そちらを見た。
 朱美は、すーっと顔を寄せてきて、声のトーンを落として言い始めた。
「あんたさあ、本当は、つらくってしょうがないんでしょ。こんなこと、本当はしたくないんでしょ」
 亜希と加納には聞こえないように意識した話し方だ。
 アイメイクで黒々と縁取られた朱美の目を見つめたまま、千尋は、間を置かずに答えた。
「いいえ、そんなことはありません。仕事ですから」
「嘘を言わないでよ。わたしだって馬鹿じゃないんだから気づくよ。加納さんに乱暴されて、亜希ちゃんには嫌味言われてさ。それであんたの様子見てれば、誰でもわかるよ」
 千尋は、天井を見上げた。シャンデリアの輝きが、目に厳しい。
 たしかに、朱美の言うとおりだ。溜め息を吐き、千尋は口を開いた。
「つらいです。理由があって、やらされてます」
 朱美は、鼻で笑った。
「あんたみたいな不幸な人も、世の中にはいるんだねえ。それにしても、亜希ちゃんも残酷だねー。ここまでやらせるなんてさ……」
 千尋は黙っていた。これといった感情も湧かなかった。
 そして朱美は、素っ気なく付け加えた。
「でも、勘違いしないでほしいんだけど、わたしも、あんたに気を遣ったりはしないから」
 承知している、というふうに千尋は顎を引いた。
 
 すると、ふいに、朱美の人差し指に、ほっぺたを突かれた。怪訝に感じた千尋は、指先で押されている顔を抵抗するように動かして、朱美に目を向けた。
 朱美の口もとには、薄ら笑いが浮かんでいた。心の内に、胸騒ぎの雲が漂い始める。



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