バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
プロローグ〜消えた合宿費
5



 ランニングシューズに履き替え、体育館を出た。何も言わずに明日香について行き、体育倉庫の前までやって来た。古びた扉を開けると、中には、体育の時間に使われる様々な運動用具が揃えられている。
 放課後は、生徒が立ち寄らないという理由で、明日香は、この場を選んだのだろうが、そこまでする必要があるかと、涼子は思った。
 
 入って中ほどまで進み、涼子が戸惑っていると、明日香は、さらに奥へと歩いていった。
「こっちこっち、りょーちん」
 明日香が、地下へと下りる階段のそばに立ち、手招きしている。
 さすがに、話を聞かれないようにするため、体育倉庫の地下にまで下りるというのは、大袈裟過ぎると感じた。だが、異議を唱えられる立場ではないことを、涼子自身、よくわかっていたので、素直に指示に従うことにした。
「りょーちん、先に行っててっ……。あたしも、すぐに行くから」
「えっ……。明日香は、どうするの?」
 涼子は、まごついて訊いた。
「ちょっと、ひとつだけ、やることあるの。すぐに戻ってくるから、大丈夫だよ。……りょーちん、ちゃんと、下で待っててね」
 明日香は、念を押すように言うと、涼子の肩にぴたりと触れた。
 互いに見つめ合う時間が、数秒あった。
 目の前の美少女は、にっこり笑い、くるりと身を翻して、早足で体育倉庫を出て行った。
 その後ろ姿を見送ると、涼子は、合点のいかない思いと不安を抱えながら、一歩、また一歩と階段を下りていった。
 明日香の態度が引っ掛かる。もしかすると、自分のことを疑っているのではないか、と勘ぐってしまう。たしかに、合宿費の無くなった状況を考えれば、疑われても仕方ないだろうが……。

 涼子は、地下に降り立った。ここに来たのは初めてだ。
 暗がりの中、壁に、電気のスイッチが見つかったので、それをパチンと押す。天井に並んだ蛍光灯が一斉に点灯し、意外なほど明るくなった。地下スペースは、想像していたよりずっと広かった。テニスコート一面分くらいの広さはあるだろうか。
 明るく、広い。
 だが、なぜか、ひどく陰気な場所に感じられてならない。
 古びた灰色のコンクリートの壁には、あちこち、ひびが入っている。奥には、ほこりだらけの跳び箱やマットなどが、捨てられたように放置されている。空気はじめじめしており、汗まみれのTシャツやスパッツにまとわりついてくるようで、気持ちが悪い。
 涼子は、力なく吐息を吐き、壁にもたれ掛かった。
 いったい、誰が、わたしのバッグからお金を盗んでいったのだろう。返してよ……。合宿、このままじゃ中止になっちゃうかも……。そうなったら、みんなになんて言えばいいの……。
 もはや、涼子には解決策が思い浮かばず、頼れるのは明日香だけだった。



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