バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
6



 点検した運動着は、香織たちの後ろに置かれている涼子のバッグの上に載せられた。まるで、許可なしには服を着せないとでもいう風情である。
「もう、わたしがお金を隠してないこと、わかったでしょ? 調べ終わったんなら、早く服とバッグをこっちに返してくれない?」
 涼子はそう言ったが、発した声は、頼りなげに響いていた。自信を持って意見を言えないのは、ひとえに、自分だけ下着姿という屈辱的な状況だからである。バレー部のキャプテンとして、部員たちを引っ張っている時とは、別人のように弱気になっている自分がいた。
 
 香織とさゆりが、どう返答しようかと相談するように、互いに目配せし合っている。
 そこで香織の口から出た言葉は、涼子にとって、耳を疑いたくなるものだった。
「やっぱりねぇ、四十万円という、すごい大金が無くなったことを考えるとね、全部、完全に調べないと駄目だと思うの。だから、南さんは、下着も外すべきなのよ。……さゆりも、そう思わない?」
「あたしも、そうするべきだと思います」
 さゆりは、肩の下まで伸ばした髪を撫でつけながら、どこか嬉しそうに答えた。
「と、いうわけだから、やれるよね? 南さん」
 香織とさゆりが、揃ってこちらに顔を向ける。
 
 全身に痺れるような緊張が走り、ぐらぐらと眩暈がした。この二人は、いったい、何を言ってるんだ……。
「……うそでしょう」
 涼子は、呟くように言った。
「嘘でも冗談でもないって……。嫌なら、別にやらなくてもいいけれど、その場合は、即、南さんが合宿費を盗んだとして、これからバレー部と学校側に報告しに行くよ。退学になっても、知らないから」
 四十万円以上の大金、退学という最悪の結末、そして、濡れ衣を着せられ、自分だけ服を脱がされている屈辱感。自分を渦巻く非日常的な事柄の数々が、涼子の判断力を麻痺させていた。
 果たして、自分には、そこまでする義務が本当にあるのか。無くなった額を考慮すると、香織の発言は正当なのだろうか。その判断さえ、今の涼子にはおぼつかない。ただ一つ、はっきりしている。それは、この場で裸になるのは、とても耐えられないということ。
「何ぼんやり突っ立ってるの? 早くして」
 香織が、苛立った声で急かした。
 しかし、涼子には、反論することもできず、かといって香織の指示に従えるはずもなく、ただ、もぞもぞと手脚を動かしていた。
 
 その時、香織が、大きくため息をつき、明日香を呼んだ。
「明日香ぁ、ちょっとこっち来てよ」
 つられて、涼子も明日香に視線をやった。
 そうだ、明日香……。あの子は、この状況をどう思ってるんだろう。涼子も声を掛けたかったが、言葉が出てこなかった。
 明日香は、ひょこひょこと香織のそばに歩み寄る。この状況で、バレー部の仲間同士なのに、涼子とは対照的に、明日香は余裕綽々とした様子である。
「ねえ、明日香。南さんが、どうも自分で下着を外すのは、恥ずかしいらしいからさ、バレー部のマネージャーとして、代わりに外してあげてよ。まずはブラジャーね」
「うーん」
 明日香は、腕を組んで唇を尖らせる。
「だって、こういう時のためのマネージャーじゃない。部員の『からだ』の管理。さあ、これは明日香の仕事よ」
 明日香は、しばらく考え込んでいたが、二度、軽く頷いた。
「うんっ、あたしがやる」
 そう短く答え、さっぱりとした笑顔を涼子のほうに向ける。
「りょーちん、がんばろっかぁ?」
 涼子は、失意の底に落とされた。なんで、なんで……。友達なんだから、もうちょっと気を遣ってくれたって、いいじゃない。
 そんなことを心の中で叫んでいるうちに、明日香の蝋のように白くて長い指が、涼子の左肩に、そっと置かれた。その瞬間、ぞっとして全身が粟立った。
 明日香の両手が肩に伸び、ブラジャーの肩ひもがつままれる。するすると肩ひもが落とされていくと、涼子は恐怖に駆られ、両腕をクロスさせて乳房を覆った。
 明日香は、涼子の体に密着し、背中に手を回してきた。下着姿の涼子が、ジャージを着込んだ明日香と、体をくっつけ合わせているのだった。
 
 ホックが外された。
 明日香は、ふいに涼子の頬に手を宛がった。
「これは、りょーちんのためにぃ、やってるんだからねえ。あたしのことぉ、怒ったりぃ、してないよねぇ?」
 唇の両端をつり上げてにっこりと笑うと、明日香は、ブラジャーのひもを涼子の腕から抜き取ろうとした。だが、涼子が、がっちりと両肩を抱いて胸を押さえているので、困った表情になる。
「りょーちーん、これじゃ、外せないよぉ」
 涼子の恥じらいなど、まったく度外視している口調である。
「どいて明日香」
 香織が、焦れたように声を発した。
「まったく、マネージャー失格じゃない」
「だってぇ、りょーちんがぁ、すごい嫌がるんだもーん」
「見てなさいよ。こうやってやるの」
 香織はそう言うと、ぞんざいな手つきで、涼子の二の腕を引っつかんだ。まるで奪われたものを奪い返すような強引さで、涼子からブラジャーを剥ぎ取ろうとしてくる。香織の手が、豊かな乳房の肉を押し潰し、乳首が擦れ合う。
「やめて!」
 ついに、涼子は悲痛な叫び声を上げた。だが、あえなく、体からブラジャーは引き剥がされてしまった。
 
 涼子は、両腕で乳首を覆い隠し、肩を竦めていた。ボーイッシュなバレー部のキャプテンとはいえ、その姿態は乙女そのものである。
 体の震えが止まらなかった。胸には、香織の手が食い込んだ際の感触が残っており、女としての誇りを傷つけられた思いだった。



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