バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
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「南さん、こっち向きなよ」
 香織に命じられるがまま、涼子は、脚を回して三人に向き直った。目を合わせるのも恥ずかしくて、頭を垂れていた。
 その時、かしゃっ、というシャッター音が耳に飛び込んできたので、反射的に顔を上げた。涼子は、目を剥いた。後輩のさゆりが、デジタルカメラを涼子の裸体に向けているのだ。

「さゆり、ちゃんと撮れた?」と香織が訊く。
「ばっちりです」
 さゆりは、薄笑いの表情で答える。
「ね、ねえ、ちょっと、それ、なに……」
 涼子は、カメラのことを問い質そうとしたが、声が震えて続かなかった。
「南さん。今日のところは、これで終わりにしてあげる……。勘違いしてもらっちゃ困るけど、南さんはまだ、潔白を証明したわけじゃ、ないんだからね」
 涼子の質問を無視し、香織は言った。
「だって、あたしたちは、南さんの体を、全然調べてないんだから……。南さんには、また明日、ここに来てもらうよ。自分が、まだ容疑者のままだってことを、忘れないで。もし逃げたりしたら、窃盗の罪で、バレー部に報告するよ。それに……、恥ずかしい写真を、バレー部の子たちに、配られたりしたくないでしょ?」
 香織とさゆりは、目を見合わせ、にたにたとしている。
 この日を境に、人生が狂っていく思いがして、目の前が真っ暗になっていた。今後も、香織に、脅迫され続けるというのか……。

「じゃあ、行こっか」
 香織が声を掛け、三人が、連れ立って離れていく。
「あ、そうだ」
 思い出したように、香織は振り返った。
「明日、ちゃんと部活にも出るんだよ。手を抜くことも許さないから。もちろん、他の子たちに、元気のないところなんて見せちゃ、駄目。マネージャーの明日香が、しっかりと見張ってるからね。部活が終わったら、制服には着替えないでここに来て。遅くなっても、待っててあげるから。……じゃあね、南さん」
 なぜ、そうさせたいのか、意図のわからないことを、香織は、矢継ぎ早に言い付けていった。
 三人は、この場で、特別なことなど何も起こらなかったかのような足取りで、階段を上っていく。
 
 しばらく、涼子は、両手を下腹部に重ね合わせた格好のまま、ぼんやりと立ち尽くしていた。何か悪い夢でも見ていたんじゃないか、と思う。現実に起きたことだとは、とても考えられない。
 自分の着ていた衣類が、バッグの上に載っているのが、目に映る。涼子は、そこまで、のろのろと脚を送り出していった。衣類の傍らに立つと、操り糸が切れたかのように体が崩れ落ちた。コンクリートの地面に、膝をしたたかに打った。
 脱いだパンツに触れ、ぎゅっとつかむ。夢でも何でもない、現実だったんだ……。性的な辱めを受けただけではなく、なんだか、将来の夢や自分の輝きといったものまでも、奪い取られたような気がしていた。




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