バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第二章〜憧憬と悪意
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 問題は、気高い美獣のごとき大物に、なんの力も持たない自分が、どう攻めていくかという点である。
 香織の出した結論は、徒党と、周到な計画だった。まずは、良き理解者である後輩のさゆりを、この策略に参加させようと決めた。だが、そこから先が、見えてこない。二人だけでは心許ないし、肝要の計画については、大筋さえ見当が付かなかった。

 しかし、思わぬことに、当の南涼子が、その答えをもたらしてくれたのだった。
 高校最後の大会に向けて、ゲームのスコアを付けたりユニフォームの管理をしたりといった仕事を担ってくれるマネージャーを探している……。涼子は、友人たちに、そんなことを話していたらしい。その情報が、噂として香織の耳にも届いたのだった。
 香織は、これを利用しない手はない、と確信した。涼子と密接な関わり合いを持つことができれば、付け入る材料の一つや二つ、おのずと発見できるだろう。これはラッキーだと思いながらも、香織は、心の内で悪態をついたのだった。馬鹿が……。周りの子たちが、みんな自分に好意的だと思い込んでるんだね。そのおめでたい思考のせいで、近いうち、あんたは痛い目を見ることになるんだから。

 けれども、香織はマネージャーという柄ではない。そこで、二年時に同じクラスだった明日香の姿が、頭に浮かんだ。あの茶髪とパーマがネックだが、明日香の美貌ならば、バレー部の後輩たちにも慕われるのではないか。女は、女の世界でも容姿がものをいう。
 それと明日香は、自分が愛嬌を振りまけば、誰にでも好かれるし、どんな落ち度も許してもらえると思っている節がある。だから、右も左もわからない部活動であろうと、物怖じすることはないはずだ。

 その後、さっそく香織は、放課後に、さゆりと明日香を引き連れ、体育館へと赴いた。
 ターゲットを確認させてから、二人に計画を話したのだ。
 南涼子は、声を張り上げ、部員たちに何かを指示しているところだった。
 あっさりと、さゆりは与してくれた。涼子に対して、特に興味も不快感も持っていないが、年上の女子生徒を陥れるという計略に、なにか新鮮な刺激を受けた様子だった。
 だが、より重要なのは、明日香が首を縦に振るかということである。明日香には、バレー部に加入して、マネージャーとしての役割をこなしてもらわなければいけない。非常にしんどく、途方もない任務なのだ。
 香織の話を聞いた明日香は、ぽかんと口を半開きにした顔で、標的と教えられた女の姿を、ぼんやりと目で追っていた。曖昧な態度の明日香に、香織は、ほとんど懇願の口調で頼み込んだ。
 すると、ふいに明日香は含み笑いを見せ、静かにこう言ったのだった。
「しかたないなあ、やってあげるよ……」
 なぜか香織は、その返事を聞いた時、嬉しいという思いより、奇妙な印象のほうが強かった。香織に根負けした、という感じではなかったのだ。
 実は今でも香織は、あの時の明日香が、腹に何を抱いたのか、よくわかっていない。もしかすると、単に、後輩たちのアイドル的な存在の涼子が、自分より上に思えて不愉快になったとか、そんな理由から引き受けたのかもしれない。だが、それは香織の憶測に過ぎなくて、明日香の真意は、未だにはっきりしていないのだ。
 それでも、あの時の明日香からは、彼女らしくない、冷たく深い決意が伝わってきた。
 改めて、香織たち三人は、エネルギッシュなバレー部のキャプテンを、標的として見据えた。互いに信頼し合っているとは言い難いが、南涼子を計略に掛けるという点においては一枚岩となったチームが、生まれた瞬間だった。



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