バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第四章〜女の子の手
2



 涼子は、惨めにも、香織の出した命令に従って、裸足でコンクリートの上に立った。
「さゆりっ。この南さんの姿、あんた、どう思う?」
 香織は、そばでしゃがみ込んでいる石野さゆりに、ちょっと怒った声で訊いた。まったくもってあきれたことに、今まで、さゆりと明日香は、くだらないお喋りに興じていたのだ。
「あっ……。ああ、うーん。セクシーだと思いますねえ」
 なんと安っぽい意見だろうか。
「そう感じているなら、ちゃんとカメラを用意しておくの! ほら、すぐに撮って」
「すいまっせーん」
 さゆりは、慌ただしくカメラを取ると、立ち上がってファインダーを覗いた。
「南先輩、そのセクシーな姿、写真に撮らせてもらいますねえ。でも、ちょっと顔を上げてもらえると、嬉しいんですけど……」
 しかし、涼子は俯いたまんまで、そのうえ、乳房のふくらみを隠すように、両手を交差させて胸を覆っていた。
 しかたなしに、さゆりは、その状態の涼子で、シャッターを切った。
 一枚は、それでいい。下着姿で恥じらう南涼子、だ。

「さゆり、次は、ちゃんと南さんにこっちを見てもらって。それで、あの手も邪魔だから、やめさせて。そうさせてから撮るのよ、わかった?」
 あえて香織は、涼子への要求を後輩にやらせることにした。そのわけは、さゆりにも、涼子に対して、嗜虐的な好奇心の赴くままに、遠慮なく言いたいことを口にできるようになってほしいからだ。年下の子に好き勝手なことを言われるのは、涼子にとって、より一層の屈辱となるだろう。
「はあ……」
 さゆりは、ちょっと戸惑った返事をする。涼子のほうに向き直ると、責任を誤魔化すかのような苦笑いの表情で、やおら言いだした。
「ごめんなさーい、南先輩。その手、どかしてもらえますっかっねえ。顔も上げて、カメラのほうを見て……。じゃないと、写真が撮れないんで。従ってくれないと、南先輩の裸の写真とか、バレー部の合宿費とか、どうなっても知りませんよお。香織先輩と明日香先輩は、恐いですよぉー」
 まあ、弱みをちらつかせたから、及第点といったところか。ただし、最後の、先輩がどうのというのは蛇足である。さゆり自身が、涼子から怖れられる存在になるのが理想的なのだから。

 それに対して、涼子は無力だった。あまりにも無力だった。
 両手を外し、そっと太ももに添えると、ほんのわずかに顔を上げ、三白眼気味の目でさゆりのほうを見る。その目つきには、憎悪と悲しみとが混在しているが、さっきより、悲しみの比重が大きくなっている感じがする。さらに、みっともなく、悔しげに唇を歪めて突き出していた。
 普段、教室で、快活な表情を見せている時に比べると、ずいぶんと不細工な顔である。だが、そんな涼子の顔は、嫌いじゃない。というより、実にいい眺めだ。
 香織は、じわじわと、体の熱が下腹部に集まってきているのを感じた。
 下着姿の涼子は、後輩によって、しっかりとカメラに収められた。

「南さん。昨日みたく、無理矢理、下着を取られたりするのは嫌でしょう? あたしたちも、そんな乱暴なことはしたくないの。だから、ちゃんと自分で脱いでね」
 香織は、それを言いたくて、うずうずしていたのだった。
「りょーちん、頑張ってえー」
 竹内明日香が、安っぽく手を叩きだした。やはり、目の前の女が下着を外すとなれば、がぜん興味を惹きつけられるものなのか。
 けれども、涼子は、この段になると、前日のように動作がストップした。まるで、無言のうちに許しを乞うているようにも感じられる。
 香織は、鼻で笑ってやりたくなった。羞恥心の限界で、無駄な悪あがきをする、あの子と、その様子を勧賞しながら、地に堕ちた蝶の羽を毟っていくがごとく、さらに苦しい状況へと追い込んでいく、あたし。この、絶対的な力関係が成り立ったうえでの、一つ一つのやりとりは、香織に、至高の悦びを与えてくれる。
「動きが止まってるよ、南さん。話し合いをしてあげようっていうのに、南さんは誠意を示せないわけ? それだと、合宿費を盗んだのは、あなたってことで確定だね」

 涼子の腕が、諦めたようにぎこちなく動きだす。自らの手でホックを外し、肩ひもを滑らせていく。巧妙に乳房の中心を腕で押さえながら、ブラジャーを抜き取った。ブラジャーも、涼子は、Tシャツやスパッツなどの上に載せる。
 涼子は、ブラジャーを着けていた時と同じように両肩を抱いて、できるだけ、乳首や乳房のふくらみを見られまいとしていた。
 そこで再び、香織は、後輩に出番を告げる。年下の女子生徒に脅迫され、痴態をさらしながらも目線をカメラに向けされられている、バレー部のキャプテン。サディストの血が刺激される、なんと異様な光景でしょうか。
 パンツひとつで乳房を隠している南涼子、もコレクションに追加された。



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