バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第四章〜女の子の手
3



「最後のそれもね、ぱっぱっぱっと脱いじゃおうか、南さん」
 そんな簡単に、涼子が、香織と同じ女子高生が、やれるはずがないのを承知で言う。
 ついに、涼子が、意を決してというように、面を上げる反応を見せた。訴えかけるような目をして、小刻みに首を横に振っている。
 少しだけ、攻撃のバリエーションを増やしてみようという考えが、香織の頭に閃いた。
「なに首振ってんの? ふざけてんの、あんた……。苛立たせないで。とっとと脱げって言ってんの!」
 香織は、一転、苛烈な口調を試してみた。その怒鳴り声により、涼子の顔に、怯えの影が走ったのを見て取る。
 しかし、それでも、涼子の表情にあった哀願の色がさらに濃くなっただけで、手を動かそうとはしないのだ。
 香織への怖れよりも、パンツを脱ぐことに対する羞恥心のほうが強大だというわけか。そりゃあ、そうか。たしかに、そうだろう。

 思いがけず、涼子の口から、かすれた声が発せられた。
「脱げません……」
 いつもの涼子からすれば、別人のようにか細い声音だったが、そこには、確固とした意志も感じられた。
 これには、香織も少々驚いた。涼子が、とうとう敬語を用いるようになったのだから。ようやく、自分の立場を受け入れるしかないと悟ったか。それとも、媚びることで香織の情けを引き出そうと、一縷の望みをかけているのだろうか。
 いずれにせよ、香織にとっては、痛快この上ない展開である。そして、これは、涼子が、完全な屈服へと、一段階落ちたものとして捉えられる。
「脱げません、じゃないでしょ? なんでできないの? 脱げばいいだけでしょ!?」
 面白いので、もう一度、痛烈な言葉で責め立てる。自分の口から出ている台詞が、とほうもなく狂っていることは、自分自身が最もよく感じている。

 涼子の頭部が、失意の底に落ちていくかのごとく、垂れ下がっていった。もはや、理不尽な命令に抗議する気力も喪失したらしく、彼女は、押し黙ってしまった。
「なに黙ってんの? それでいつか許してもらえると思ってんの? ほら、一番恥ずかしいところは、手で隠してもいいからさ、パンツ脱ぐことはしなさいよ」
 すでに、この場は、香織の独壇場だった。序盤は目立っていた明日香も、今では鳴りを潜めている。もう、明日香の手助けも必要ない。
 昨日もそうだったのだが、ボルテージが上昇してくるにつれて、心身が酩酊感に支配され始め、徐々に理性が利かなくなっていく感じがする。壊れた暴走機関車と化した、情け容赦のない香織によって、涼子は、これから生き地獄の屈辱を味わうのだ。
 
 涼子のほうは、もう、まったく打つ手を思いつけないらしく、銅像のように身じろぎひとつしなくなっていた。
 揺るぎない力関係を基にした些細なやりとりを愉しめるのも、ここまでか、と香織は見切りをつけた。せめて、香織の不条理さに抗議したり、地べたに土下座して哀訴したりと、リアクションを見せてくれたなら、もう少し長引かせられるのだが。これでは、いつまで経っても状況が変わらず、埒が明かないと香織は判断した。もう、言葉で責め立てるのにも飽きてきた。
 とはいえ、涼子のパンツを巡る、涼子とのコミュニケーションは、極めて中身の濃い時間で、香織を充分に満足させるものだった。それだけ、ひとりの女子生徒が人前で脱ぐパンツには、重い意味があるということだ。
「まあったく……。やっぱり、自分じゃあ脱げないみたいね、南さん。あのさあ、黙りこくるとか、そういうとぼけた態度、すんごいムカつくんだけど」
 なんだか、演技で言っているのか、あるいは、本当に苛立たしく感じているのか、自分でもよくわからなくなってきた。



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