バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第五章〜美女と美女
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 一線を越えてしまったと感じることが、これまでに幾度かあった。特に何かの恨みがあるわけでもないクラスメイトの女に、想像を絶する恥辱を与えている真っ最中。
 もし、自分が、同じことを、誰かにされたとしたら。吉永香織は、時折、そんなことを考えてみる。答えは、一秒もしないうちに出る。まず耐えられるはずがない、と。気がどうかしてしまうし、その精神的外傷は、終生、消えることはないだろう。きっと、さゆりや明日香にしたって同様のはずだ。

 南涼子は、一糸まとわぬ体を小刻みに震わせながら、女の恥部だけはと、股を両手で覆っている。その姿からは、日常の快活な彼女とはおよそシンクロしない、見るも無惨な雰囲気が漂っていた。
 これほどまでの仕打ちをしてもよいのだろうか。わが身だったら、絶対にこらえることのできない仕打ちを。
 香織は、自問自答してみるのだが、案外、またすぐに答えが出る。自分自身ならば、到底、耐えられないようなことだからこそ、やりがいがあって面白く、快感なんじゃないか。
 最終的に導き出されたその結論は、香織の中で、だんだんと一種の哲学と化していく。そうして香織は納得し、次なる行動に移るのだった。

「ああ……、そういえば、まだ、話し合いが済んでなかったね。南さんも素っ裸になって、一応、誠意を見せてるってことで、南さんの言い分も聞いてあげよっか? ねっ、明日香?」
 声が弾む。今の涼子が、香織たちと同等に話し合えるはずがないのは、火を見るより明らかだった。
「ううーん。そうだねえ、りょーちん、必死に頑張ってるから、ちゃんと、話、聞いてあげるべきだねえ」
 明日香は、親指を顎の下に宛がい、まじめ腐った顔で頷く。つと、涼子のほうを向いた。
「りょーちん、何から話したぁーい? どっかに無くなっちゃった合宿費のこと? それとも、りょーちんの恥ずかしい裸の写真のことぉ?」
 明日香の人形のような顔に、あからさまに野卑な笑みが浮かぶ。
 涼子は、つい昨日までは仲間だと信じていた女の挑発に、憎しみの籠もった目つきを向けた。だが、すぐに、汚らわしいものを見せられたとでもいうふうに視線を外すと、口を噤んでしまった。
 香織にとって、ちょっと期待外れの反応だった。惨めな格好をさせられていながらも、涼子が、魂を振り絞って舌戦に臨んでくるのを期待していたのに。さすがの涼子も、そこまでの太い神経は持っていなかったということか。
 つまんないの……。香織は、内心で、ふくれっつらをしていた。
「何も言うことはないの? 南さん。それなら、もう、あたしたちに対して、文句は無いってことだから、こっちの都合だけでやらせてもらうよ。……じゃあ、さっそく、合宿費を盗んでないか確かめるために、南さんの体を検査するから」
 ほとんど反射的に、涼子は切迫した顔を上げ、香織を見てきた。そして、かすれ気味の声を絞り出した。
「バレー部の合宿費を盗んだのは、あんたでしょう……。もう、本当に、いい加減にして。いったい、あんた、なに考えてんのよ」
 香織は失笑した。絶体絶命の状況だというのに、そんな弱々しい抗議口調でよいのだろうか。ともかく、これで、『話し合い』、要するに言葉の応酬は、涼子の戦意喪失によって、続けても面白味がないだろうことがわかった。
「はっ? なに言ってんの、南さん……。あんまりふざけたこと言ってると、あたしたち、本気で怒るよ。お金が無くなった責任は南さんにあるし、それに、南さんは容疑者なんだよ。なんで、あたしたちのせいにすんの? ホント、信じらんなーい」
 真っ赤な嘘で責め立てているというのに、それでも涼子からの反撃がこない。香織は、当初予定していた、全裸になった涼子との話し合い、を省くことに決めた。
 さてさて、そうなると、お次は……。ついつい、頬がにやけてしまう。その、匂い立つ肉体の検査に移り、恥辱に悶える涼子の姿をたっぷりと勧賞させてもらおう。



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