バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第五章〜美女と美女
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「かおりぃー。ほら、あたしがこうしてるからぁ、りょーちんのおしりを早く調べてぇ」
 明日香が、わずかに首を巡らして言った。
「いっ、いや、やめてっ……」
 涼子は、さながら死刑宣告を受けた女のような必死な声を上げる。
 どうやら、明日香のその行為には、香織とのコンビネーションという意味合いも、半分くらいは含まれていたらしい。好都合といえばそうなので、ここは、彼女の言うとおりにしようと思う。
「さゆりー。あんた、突っ立ってないで、こっちにきなよっ。……ちゃんとカメラを持ってね」
 香織は、後輩を呼びつけた。さゆりが、カメラを大事そうに胸に抱えてそそくさとやって来る。
 悲鳴みたいな声が涼子から発せられたが、構わず、香織はさゆりと共に、涼子の背中側に回っていく。その途中で、くっつき合っている二人が、それぞれどのような表情で向かい合っているのか確かめてみたくなり、ちらと見やった。

 香織は、思わず足を止めていた。
「ん? せんぱーい、どうしたんですかぁ?」
 いきなり立ち止まった香織に、さゆりが訝しげに訊いてくる。
「ああ……。うん、なんかね、南さんの顔がやばいから、ちょっと、面白くて……」
 ほとんど上の空で、適当に返事をする。
 自分の眼前で、体を密着させている彼女たちが漂わせる、形容しがたいオーラに、香織は、心を奪われていたのだった。
 
 その光景は、ぞくぞくするほど魅惑的だった。なぜ、そう感じるのかは、自分でもいまいち判然としない。ただ、直感は、とんでもなくプレミアムな光景だと告げていた。奇跡の瞬間に立ち会っているのではないかとさえ、香織は思い始めた。
 その不思議な感覚の要因を、香織は、徐々に掴んでいった。一言で要約するならば、明日香と涼子の強烈なコントラストだった。
 それを最も顕著に表しているのが、二人の表情である。明日香は、吹き出すのを堪えているような、あるいは、チャーミングな顔つきを意識的に作っているような、そんな感じに口元をきゅっと結んで、じっと涼子の顔を見つめている。かたや、涼子のほうは、惨め極まりなく、恥辱や恐怖のためだろう、唇を震わせながら、どこか虚ろな眼差しを明日香と香織たちとに交互に向けている。
 そのほかにも色々とある。衣類を身に着けている明日香と、全裸の涼子。外気に曝されている涼子の乳房は、ちょうど同じく明日香の胸のところに押し当てられており、卑猥感たっぷりに先端部分が潰れていた。
 余裕綽々の態度で、ふざけきっている明日香に対して、涼子の荒い呼吸音は、香織の耳にもひっきりなしに届いてくるほどだ。明日香の顔には、その息が、さぞかし甚だしくかかっていることだろう。
 さらに、現在の二人の、体臭や、髪の乱れ具合などに着目してみても、面白い。
 
 要するに、明日香と涼子では、互いの状況が天国と地獄のごとく対照的なのだ。そして、ただ一つ、二人には、運命めいたものを感じさせるような共通点があった。両方とも、同性からも憧憬を集めるほどの、いい女、なのである。
 この、嘘みたいな条件下で、優位な立場にある女が、一方的に相手の女を抱擁しているという絵には、どこかホラーじみた『ありえなさ』を感じさせられた。
 ひょっとすると、マニアックなエロ本や映像などの中では、こんな光景が表現されることもあるかもしれない。だが、フェイクではない実物となると、この先、どんな場所へ行こうと、お目に掛かる機会は金輪際ないだろう。
 美少女というには、若干、彼女たちは大人びている気がする。美女というほうが相応しい。美女と美女が、文字通り絡まり合ってコントラストが浮き彫りになった絵は、とてつもなく異様であり、そして、官能的だった。

 香織は、その絵を、さゆりに指示して写真に収めておきたい思いに駆られた。けれども、明日香にとっては、涼子を辱めている決定的瞬間を撮られるわけだから、あまりいい気はしないだろう。惜しい気持ちで一杯だったが、香織はそれを断念した。
 絵の中の人物となっていた明日香が、ふいに、こっちに顔を向けた。香織は、なぜか赤面してしまうのを感じた。
「なーに見てんのよぉ? かおりぃ。あたしが押さえてるから、早く、けんさぁ」
 明日香の口から出た声音には、相も変わらず、世の中を舐めきったような響きがある。
「ああ……、うん。じゃあ、よろしく、明日香」
 おざなりな返事をして、香織は、後輩と共に、涼子の背中側へと回った。



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