バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第五章〜美女と美女
5



「別にさあ……、変なとこ触ってるわけじゃないんだから、大げさに嫌がらないでよ……」
 素知らぬ調子で文句を付け、さっきと同じく右手を涼子の腰に宛がった。びくっと涼子の全身が反り返る。じわじわと嫌悪感を与えていくのが快感なので、香織は、敢えて臀部には触れなかった。
 その時、涼子が、あまりにも彼女らしくない、弱々しい声で言った。
「いや……。ねえもう……、やめてよっ」
 いつもの涼子の、低いが、よく通る声音とは似ても似つかない、泣きだしそうなか細い声だった。
 香織は、やや呆気にとられたが、それも束の間、腹の奥底から笑いが込み上げてきた。
 授業では、甘いアルトヴォイスで朗々と発表を行う女も、こんな声を出すのか。部活中は、体育館全体に轟くような大声を発し、部員たちを統率している、この女が。
 なんのことはない。バレー部のキャプテン、ボーイッシュな雰囲気でかっこよく、後輩たちの憧れ、頭は切れるし運動神経も抜群、まさにオールラウンドの南涼子、といったって、所詮は、ただの女子高生、思春期の女の子。素っ裸にされて恥ずかしいイジメを受けたら、当然、涙声になっちゃう。
 可哀想ねえ、りょうこちゃん……。死にたくなるくらいつらいのは、とってもわかるけど、でも、やめてあげない。だって、あたしたち、愉しくてしかたないんだもん……。やめるわけないだろ、バーカ。
 完全な屈服へと、さらに一段階、涼子が落ちた気がして、香織は、うきうきしっぱなしだった。

「りょーちぃーん。さっきから、息がはあはあ、あたしの顔にぃ、かかってんのぉ。気持ち悪いんだけどー」
 明日香が、蔑みの口調で言う。その台詞に、香織とさゆりも嘲笑を重ねた。
「なんか……。南先輩、すんごい鳥肌立ってるんですけど、大丈夫なんですかね……。ひょっとして、裸で寒いのかも……」
 さゆりは、苦笑いの表情で呟きながら、さりげなく涼子の太ももにぺたりと触れた。その瞬間、涼子の肉体が、目に見えてより一層こわばった。その反応が面白かったらしく、さゆりは、にたっと口元を歪めると、皮膚を撫でさすり始める。
 この後輩は、先輩である涼子に対して、正面からでは、こんな真似はできなかったはずだ。今は、当の涼子の視界には入っていないので、自分の行為もうやむやにされると思っているのだろう。いかにも、陰口の大好きな、さゆりらしいやり方だと感じる。
 ただし、涼子の意識は、さゆりの思惑とは真逆に相違ない。全裸の下半身を、年下の子に触られているという悪夢のような事実は、涼子の頭の中ではっきりと認識され、今、その嫌悪感が全身を駆け巡っていることだろう。気のせいか、醜い鳥肌が、ことさら顕著に現れてきたようにも見えるのだった。
 さゆりは、まるで温めてやっているような手つきで、肉感的な太ももの皮膚をもてあそんでいた。けれども、そこより上、つまり臀部には、一向に触ろうとはしない。どうも、衛生的に問題、と見ている風情である。

 とうとう、涼子が耐えられなくなったらしく、再び暴れだした。
「はああっ……」
 パニック状態を示す、言葉にならない甲高い奇声を発し、全身を激しく揺すったのだった。
 しかし、明日香は、冷然と対応した。
「もぅ! 痛いってりょーちん。あたしに暴力振るう気なのっ? すべてを失ってもいいのっ?」
 明日香の恫喝により、涼子の体の動きが急速に弱まっていった。
 力による抵抗にかちんと来たらしく、明日香は、いつになく険のある口調で言いだした。
「暴力は使わないって、さっき誓ったでしょ……。りょーちんは、約束破ってるよねえ? つぎ、今みたいに暴れたら、もう許さないから。恥ずかしい写真が出回ったうえに、退学になっても、知らないから」
 涼子は、何も言い返せなくなり、その肉体は鎮静化した。
 ここで、改めて香織は、自分たちの握った涼子の弱みが、いかに凄いものであるか再認識した。もはや、涼子を屈服させるだけではなく、涼子の人生を滅茶苦茶に切り裂くことさえ可能な、危険な誘惑を帯びたナイフなのだ。
 香織は、その事実に、かすかな当惑と感動を覚えながら、視界の中心を占める、巨大な臀部に視線を戻した。



次へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.