バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第六章〜穢れなき罪人
3



「今日撮った裸の写真も、ぜーんぶバラすからぁ、みんなから変態あつかいされたうえにぃ、合宿費盗んだ罪でー、学校もー、退学になったらいいよっ」
 明日香の攻勢は、まだ続く。口調が平静に戻ってきたのと反比例して、言葉の内容は、どんどん過激になっている。
「い……、いや……」
 今にも泣きだしそうに思えるほど悲しげな涼子の声が、ぽつりとこぼれた。
 香織は、にやりと笑う。結局のところ涼子は、明日香の言ったような脅迫の内容が、本当に現実のものとなることを、何よりも恐怖しているのだ。
 実直な性格で、勉強も部活動も全力投球。自然と人望も集め、伸び伸びとした高校生活を送りながら、おそらくは、将来への青写真もしっかりと思い描いているはずの、南涼子。
 むしろ、そんな生徒だからこそ、この手の弱みが、面白いほど効力を発揮する。クラスメイトやバレー部員たちに人格を否定されること、そして社会からのドロップアウト。そのような事態は、涼子にとって、今までの人生で積み上げてきた輝きを、すべて失うようなものなのだ。

 言い返すこともできない哀れな涼子の裸体を、明日香は、またしても突き飛ばした。踏ん張りきれない涼子の脚が、勢いよく後退してきて、香織たちにぶつかってくる。
 さゆりが、大げさに溜め息を吐いた。
「せんぱーい。さっきから痛いんですよっ。それに、この、汚いけつ、ホントどうにかして!」
 軽蔑と不快感の混じった罵りを浴びせ、涼子の太ももに手を宛がうと、その下半身を邪険に押し返した。涼子が明日香の脅迫に怯んだとたん、調子づいて態度を急変させるところは、いかにもさゆりらしい。
 まさに四面楚歌という状況で、へどもどするばかりの涼子に、明日香は、まだ追い打ちをかける。
「なんとか言ったらぁ? りょーちーん。誓ったことを守らなかったんだからー、ちゃんと誠意見せてよ。……土下座くらいはぁ、しよっかぁ?」
「えっ。え……、そんな」
 もはや、まともに言葉も出てこない有様の涼子。
 
 もう少し続きを見ていたい気もするが、香織は、この絶対的な形勢をうまく利用しようと考えた。
「明日香、もういいよ。南さんも反省してるだろうから、許してあげようよ。だから、明日香もこっちに回ってきなよ」
 涼子の体を物理的に拘束する必要は、もはや、皆無だと感じ取ったのだ。性感帯への直接刺激など、これまでと段違いな苦痛でない限りは、『言えば聞く』はずだ。
「南さんは前を向いたまま動かないで。わかってると思うけど、次は、本当に許さないからね。じっとしてて」
 香織は、冷然とした口調で告げる。
 なおもぷりぷりした態度の明日香が、香織の隣にやってきた。背後に三人が揃うと、髪の毛の乱れた涼子の頭部が、絶望の底に沈んでいくかのように傾いていった。



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