バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第六章〜穢れなき罪人
5



 涼子は、目を合わそうとするようでいて、決して誰とも視線を絡ませなかった。その視線は、捉え所のない感じに、斜めに行ったり来たりして漂っている。今、面を上げているのは、彼女の最後の矜持のように思われた。
 涼子の前に戻ってきた香織たち三人の腹にある、共通で唯一の目的は、涼子が相も変わらず両手で押さえている部分を露出させることだった。
 機運は熟していた。あれこれと段階を踏んできて、すでに、やるべきことはそれしか残されていない。涼子本人も、そんな空気を肌で感じているに違いなかった。

「南さん。もうわかってんでしょ? 早くして」
 切り出す台詞を選ぶのに、香織は、なぜか緊張を覚えた。
 涼子は、一瞬、切れ長の双眸を発言者の香織に向けるが、すぐに視線を逸らした。
 やっぱり目が合うのは愉快だ。それに、なんだかドキドキする。涼子を相手に、なにかリスキーな駆け引きを行っているような気分にさせられるのだ。むろん、実際には、香織の圧倒的勝利に終わるわけだが。
 香織は、軽く息を吸うと、もう一度、同じ意味を示す言葉を吐いた。
「これは南さんの……、義務みたいなものなんだよ。ほら、両手をどかして、気をつけして」
 すると、ほとんど間を置かずに、涼子が声を絞り出すように言った。
「もう……、おねがいです。やめてください……」
 その言葉遣いは、誇り高い涼子が、ついに自分の下等な立場をわきまえた証拠だった。
 だが、香織の道義的な感覚がすでに麻痺しているせいか、特別、新鮮味を感じない。もはや、そんなことは当然だと思われるのだ。
「は? 何言ってんの……? ねえー明日香ぁ、南さん、ムカつかない?」
 香織と横目が合うと、明日香は薄笑いの表情になる。氷の女王。そんなイメージを彷彿とさせる、そこはかとない残虐性を匂わせる表情だった。
「りょーちん。さっき体当たりされたところぉ、まだ痛いんだけどぉ……。これ以上、反抗されるとぉ、ほんとーにムカついてくるなあ……」
 もはや、涼子はなんの返事もしなくなった。
 短い沈黙の後、明日香は、突き放すように言う。
「どうしても無理なのぉ? りょーちん。だったら、べつにいいけど……」
 たぶん明日香は、脅迫の言葉を継ぐつもりだろうが、香織は、押し黙っている涼子の態度に我慢ならなくなり、自らの口で、決定的な窮地に追い込んでやることに決めた。
「だーからー! 『そこ』隠しててどうすんのよっ。手をどかすか、あくまで反抗するのか、どっちかはっきりして。べつに嫌ならいいけどさ。でも、あとで困るのは、あんた自身だからね?」
 猛り立った香織は、痛烈な語気で涼子に迫った。
 そこまで聞くと、涼子は、力なく瞑目した。そうしてうっすらと瞼を開き、恥部を押さえていた両手を、そろそろと動かして腰につける。耐えがたい恥辱のためか、両手の指が、太ももの皮膚に食い込んでいた。



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