バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第六章〜穢れなき罪人
6



「えっ……」
 のっけに声を発したのは、意外にもさゆりだった。
「ええーへえ……?」
 次に明日香が、間の抜けた笑い声を上げつつ、香織の肩を、さりげない手つきで押してくる。根が単純な明日香は、それを見たとたん、機嫌を取り直してしまった様子である。
 彼女たちの反応は、もっともだと思う。香織はといえば、かなりの驚きを覚え、思わず見入ってしまっていた。
 陰毛が、岩礁を覆う藻のように黒々と恥丘に茂っていて、目を凝らしても、裂け目の筋はまったく視認できない。何よりも驚愕させられたのは、密生範囲の広さだった。みっともないほど逆三角形に陰毛が生え揃っており、その上辺は、いずれ臍にまで届くのではないかと疑いたくなるような高位置なのだ。
 この年になれば、体は、もう大人として成熟している。だが、少なくとも、うちの学校内には、これほど夥しく恥毛の生えている女子生徒が、ほかに何人もいるとは想像できなかった。
 けれども、涼子の性格や、部活動に明け暮れている高校生活などを鑑みると、日常的な日々を送る分には、そんな『ボーボーの状態』も、特に気にする問題ではなかったのかもしれない。
 では、今この瞬間はどうか。赤の他人の前で全裸になるという、イレギュラーな事態に襲われては。やはり、さすがの涼子でも、それが見苦しい恥だと思わずにはいられないだろう。
 そんな涼子の恥丘を確認するに至り、香織の中で、おおよそ予想は付いていたが確信に変わったことがある。この子は処女だ。

「ねえ、手を上げて……。万歳みたいに」
 現在、涼子の心身は、計り知れないほどの恥辱に蝕まれているだろうが、そんなことは一顧だにしていないふうに、香織は命じた。
「えっ……」
 涼子は、ぽつりと低い声をこぼし、もぞもぞと狼狽したように体を動かす。
 従うのが恥ずかしいために躊躇しているのか、あるいは、極限の状況で、頭の回転がひどく鈍っているのだろうか。理由はどうでもいいが、香織にとっては、そうやってぐずぐずされるのが、いちいち癇に障る。
「万歳って言ってんのっ。早くやってよ」
 苛立ちを露わにしながら、仕方なくジェスチャーしてやる。
 観念したというより、何かに憑かれた雰囲気を漂わせながら、涼子が両手を上げてゆく。
 だが、静止した体勢は、控え目すぎる万歳で、香織の納得できるものではなかった。あー、もう……。いらいらさせんなよ、この、惨めな素っ裸の豚のくせに。
「もっと! しっかりと上まで、ぴんと伸ばすの!」
 そうして、ようやく涼子の体勢が思惑通りになると、香織は、ほくそ笑んだ。

 実は、あることによって、香織は、ひそやかな勝利感みたいなものを募らせていたのだった。
 小学生の終わりか、中学に上がって間もないあたり、だいたいそんな年頃から、香織がずっと抱き続けていた自説。
 体つきがよくて肉感的な女の子は、たしかに、豊満なバストや魅惑的なヒップを備えている。だけど、そういった体の発育に恵まれている子は、全身のありとあらゆる細部まで、すごく発達していると考えて差し支えないだろうから、反面、体臭がきつかったり、毛深かったり、おしりが汚かったりという『汚点』も、比較的多くあるに決まっているのだ……。
 この法則は、なにより根拠が薄弱だし、色気のない自分の体に対するコンプレックスや、自分とは対照的なボディラインの女の子に嫉妬する感情から、香織が無理矢理、捻りだしたものである。認めたくはないが、香織自身、心の奥底ではそのことをわかっていた。
 しかしながら、現在、南涼子の肉体の検分を進めていくうちに、あの空中楼閣の法則が、しだいに実証されつつある気がしてならなかった。そのため、もう一つ、調べるのを怠ってはいけない箇所があった。高校生にもなれば、例外を除くほとんどの女子が、気を遣い、手入れを施している部分である。



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