バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第八章〜密室
3



 三人は、なにやら、小さな身振り手振りで合図を送り合っていたが、ふいに、香織を先頭にして歩み寄ってきた。
 体を突き合わせて戦わなければならないのに、二度にわたるトラウマのためか、後ろ脚が後退しそうになる。
 香織は、涼子のそばまで来ると、手近の机にバッグを置いた。バッグから小振りの紙袋を取り出す。
「バレー部の合宿費、一部だと思うけど見つかったよ。さゆりが、体育倉庫のそばに落ちているのを発見してくれたの」
 香織は、傲然と顎を上げて何気ない口調で言った。
「えっ……」
 思わぬ言葉に、涼子は、完全に虚を衝かれていた。
 むろん、香織の言ったことが白々しいデタラメであるのはわかっている。合宿費は、香織が盗んだのは自明の理である。けれども、どういうわけか、そのお金を返すつもりらしいのが妙だった。
 香織の虚言に突っこむ前に、まず、この目で現金を確認したかった。
「お金、あるなら出して」
 涼子は端的に言ったが、案に相違して、香織は黙って袋に手を突っ込んだ。
 だが、香織の取り出した紙幣の枚数を見て、涼子は失望した。たったの六枚。六万円しかない。
「もっとあるはずでしょ! 全部返してよっ!」
 涼子は、我を忘れて、つかみかからんばかりの怒号を上げた。
 その気迫に、香織だけでなく、さゆり、それに明日香までもが怯んだのを、気配で悟る。
 しょせん、この女たちは、卑劣な手段に頼っているだけの小心者の集まりなのだ。

「知らないって……。たまたま、これだけ落ちてただけなんだから。あたしたちが盗んだみたいな言い方、やめてよ」
 香織が、呟くように言った。さっきまでの不敵な笑みは、すっかり影を潜めている。
 前日もそうだった……。香織は、自分たちの優位が脅かされると、とたんに縮こまるのだ。ここは勝負の分岐点だ、と自分を奮い立たせる。一気に片を付けてやる。
 涼子は、右の拳を握りしめた。まずは、主犯のあんたからよ……。反吐が出るほど憎い香織の顔面に、照準を定める。
 と、その時、香織が思い出したように口を開いた。
「あ、待って、南さん。まだ渡すものがあったの……」
 涼子は怪訝に思い、拳を振るうのを躊躇した。香織は、紙幣を机の上に置くと、同じ紙袋の中を、もう一度探り始めた。

 香織が紙幣の横に置いたものを見た瞬間、涼子は息を呑んだ。目の前が暗くなったが、鋭気だけは保とうと努める。だいじょうぶ、落ち着いて……。これは想定内のことじゃない。
 香織は、机に載せた写真の束をトランプみたいに散らすと、涼子の反応を窺うように、両眼を三白眼にした。
 Tシャツにスパッツ姿の涼子の下から、見るもおぞましい写真の数々が現れていた。脳細胞が一つ一つ死滅していくかのように、思考能力が急激に落ちていった。



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