バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第八章〜密室
4



 茫然として生々しい自分の裸体の写真を眺めていると、香織が声をかけてくる。
「これ、よく撮れてるでしょ? さゆりの腕前もなかなかだと思わない? 全部、南さんにあげるよ。だって、ほかならぬ南さんの体だもんねえ」
 香織の口調は、打って変わって余裕綽々とした揶揄の響きを帯びていた。
 涼子は、粘ついた唾液を飲み込み、今、自分にできる最善の策は何かと、ぼんやりと霞がかった頭の中で考える。
 とりあえず、机の上に載っている現金と写真を回収するべきでは……。でも、写真のほうは、データを消去するとは考えられないので、たとえ、そこにある現物をすべて焼き捨てたとしても、無意味であろう。
 涼子は、あらためて写真の一枚一枚を見ていった。
 ひどい……。こんな格好をさせられてたんだ、わたし……。むろん、あの時のことは忘れようにも忘れられないが、文字通りの客観的証拠である写真を見せつけられ、想像を絶する卑猥さに打ちのめされる思いだった。写っているのは自分自身の体であるが、あまりに穢らわしいものに感じられて、目を疑いたくなる。
 全裸で両手を頭の後ろで組んだポーズ……。真後ろから撮られた臀部のアップ……。

 とたんに、吐き気に似た不快感に襲われ、思わず、そこから目を逸らした。隣の机に両手をつき、乱れた呼吸を整える。ショックのためか、体中から力が抜けており、肌が粟立っていることに気づいた。
「どうしたのー、南さん? なんか気分悪そうだけど、大丈夫?」
 香織が、皮肉たっぷりに言葉を投げ掛ける。
 涼子は、横目で香織の顔を一瞥した。
 細く小さい吊り目には、気色の悪い光が宿っており、勝ち誇った薄笑いを張りつけていた。
 きもちのわるい顔……、ブス……。顔も性格も最悪な女。
「りょーちーん、ちゃんと写真見なってぇ。セクシーに撮れてるよお。あたし的にはぁ、これが一番のお気に入りかなぁ」
 明日香は、写真の載った机の上で両腕を組み、そこに顎を埋めていた。一枚の写真を、とんとんと指で叩いている。それは、太ももから腹部にかけて、つまり、黒々とはびこった陰毛のクローズアップだった。
 香織とは反対に、どんな否定的なバイアスが掛かっていようと、類いまれな美貌に見えてしまう明日香の鼻先に、不潔極まりない涼子の写真がある。その、なにか両者の対照性を強調するような取り合わせの光景に、涼子は、猛烈な恥辱を覚えた。
 明日香は、涼子の顔を上目遣いに見ており、視線が合うと、あの、笛の音みたいな耳障りな笑い声を上げた。



次へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.