バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第九章〜肉塊
6



「そんじゃあ、そろそろ、南さんの肛門、ご開帳ということで」
 香織の言葉が、なぜか他人事のように耳に響く。うそよ……、うそ。
「南さん。今から、おしりを思いっ切り開いて、肛門の周りを調べるよ。あたしだけじゃなく、さゆりにもちゃんと手伝わせるよ。二人で、徹底的にけつ毛の検査するからね」
 およそ高校生活では耳慣れない単語が連続し、理解不能だった。なにを言ってんのよ、いったい、なんなの。
 意識が、夢と現実との間でさまよっている感じで、身体感覚までもがふわふわと妙に頼りない。
 悪い夢でしょう。普通じゃ、考えられないことだもん。でも、もし現実だったら……。とたんにトンネルを抜けた直後みたいに視界が眩しくなった。目をしばたたいてみたが、眼前には、やはり、唇をきゅっと結んで微笑する明日香の顔があった。
 裸足の足の裏をつけている、ひんやりとした床から、空前絶後の恐怖がせり上がってくる感覚があり、全身が急速に冷たくなった。

「えっ……、いや」
 ほとんど無意識のうちに、涼子は呟いた。
「は? なんか言った? 南さーん」と香織の声。
「あっ、あの……。それは、やめてください……。すみませんでした」
 何について謝っているのか自分でもよくわからないが、直感が、平謝りしろと告げていたのだ。
「今頃になって、すいません、とかふざけてんの? あんたがボディチェックに協力しないから、こんなことになってんの! あたしもさあ、あんたの、見るからにばい菌だらけの汚いけつの中なんて、触りたくないの!」
 耳を疑いたくなるが、紛れもなく、自分に向けられた言葉だった。悪夢なんかじゃないんだ。
「……はい、すみません」
 涼子は、必死の思いで謝り続ける。
「反省してんならさあ、今すぐ両手をどかしなよ。そうすれば、肛門の検査だけはしないであげる。言っとくけど、ラストチャンスだからね」
 どちらにせよ、精神の限界を超える地獄である。助かる道はなく、もう絶望の闇しか見えなかった。
 でも、『それ』だけはされたくない。とても耐えられない。その一念が、涼子の頭の中で膨張し、他の思考や感情を圧倒している。
 汗ばんだ両手をじりじりと下腹部からずらし、腰骨のあたりに付ける。
 明日香が、ふっと笑って涼子の腕を放した。ほどなくして、香織とさゆりも涼子の前に戻ってきた。



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