バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十章〜波及
4



 他人に触れられた傷の残る乳房を隠している涼子に向かって、香織は、血も涙もなく再度ポーズを強要した。
 涼子は、涙を呑んでガードを解き、両手を頭の後ろで組む。
「南さん、あんたが悪いんだよねえ? 一目見りぁあ剃ったかどうかなんてわかるの。約束守れなくて剃っちゃったなら、まずはそのこと謝るのが普通でしょ?」
 香織の顔が、まるでデスマスクのように見えてくる。
「……はい」
「あたしたちが許せないのは、しらばっくれようとしたことなの。なんで嘘つくの? なんで謝ろうとしないの?」
「はい……。ごめんなさい」
「今さら、遅いから……」
 そこで香織の手が脈絡なく飛んできて、涼子は頬を張られた。弱い打擲だったが、香織の掌が唇に当たったので、自分の唾液が付着したのがわかった。そのために、なんとも決まりの悪い気持ちになる。
 涼子が見るともなしに見ていると、香織は、掌に目を落として顔をしかめ、吐き捨てる。
「きったねえ……」
 このような状況下では、自分の臭気を持つ唾液や汗といった体液は、恥以外の何物でもない。

「拭きたいから動かないで……。じっとしてなさいよ」
 渋面の香織は、有無を言わせぬ口調で言うと、なにやら、その口元を不気味に曲げた。
 次の瞬間、涼子の肉体は反射的に竦み上がった。
 明日香の指の感触が焼きついた左胸に、今度は、香織に手を擦りつけられたのだった。その掌に付着していた自分の唾液で、乳房の皮膚にうっすらと湿り気が付く。
 同様に二度、三度と、香織の小振りの手が、涼子の豊満な乳房をなぶり、デリケートな性感帯の突起が、見るも無惨に捩じ曲げられる。
「うぐっ……」
 涼子は、凍えるように両手を組み、その仮借なき刺激に身悶えた。浅く荒い息づかいに混じって、およそ日常とは似ても似つかない弱々しい声が、自分の口から漏れている。自我を切り裂かれるような、悲しみと絶望の極致。
 その時、香織の黒目がちらりと上がり、涼子と視線が交錯した。直後、左胸を擦っていた香織の手が、脈絡なく乳房を押し潰した。その手が弧を描いて乳房の肉を押し上げ、時折、さり気ない素振りで指が蠢いては、乳首をひねくり回される。
「あぁ……、いやっ」
 びくりと上半身が痙攣すると同時に、涼子は、不覚にもひときわ高い声を漏らしていた。だが、剥き出しの性感帯を、忌まわしい女の手に刺激されるという、身の毛のよだつ感覚の荒波が、痴態を演じてしまった恥ずかしさをもさらっていく。
 視線を落とすと、その小柄な女の顔には、下卑た薄笑いが浮かんでいた。
 きっと、わたしの唾液で手が汚れたことを、これ幸いと捉えたのだろう。そんな思いが、脳裏をよぎる。
 量感に富む、涼子の乳房の手触りや、その形を卑猥に歪ませることに、香織は、ただならぬ愉悦を覚えている。考えたくないが、もはや、それは疑いようのない事実だった。



次へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.