バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十章〜波及
6



「あっ。でも、待ってくださいよ、香織先輩……。腋の処理してたんだから、やっぱり念のため、おしりのほうも調べたほうがよくないですか? 南先輩、剃っちゃってるかもしれないし」
 さゆりは、横目で涼子の顔を見ながら言い、歯の間から摩擦音を漏らして笑う。
 涼子は、腹の底からぐっと何かが込み上げるのを感じた。
「どうしよっか、南さん。さゆりがこう言ってるんだけど……」
 香織は、加虐趣味を絵に描いたような笑みを浮かべている。
 どうせ、わたしが何を言ったところで、やる気なんでしょうが。半ば諦めの心境だったが、どうして、たやすく受け入れることができようか。
「お願いします……。やめてください」
 涼子の言葉に、香織とさゆりが目配せし合う。
「あたしはいいよ、南さん。だけど、言い出したのは、さゆりだからさ、どうしても嫌なら、さゆりに向かってお願いしてよ。検査するかしないかは、この子の判断で決めるから……。ちゃんと、なんで嫌なのか、理由を、はっきり正確に伝えなきゃ駄目だからね」
 年下に辱められる女という構図を、香織は特に好きこのんでいる。だいぶ前から思い知らされていることだが、もはや迷う余地はなかった。
 
 へらへらと舐めきった笑いを見せる後輩のほうへと、涼子は裸身を向ける。
「検査はつらいんで……、やめて、もらえますか……」
 涼子が、後輩に対して屈辱極まりない丁寧語で言い終えると、わずかな沈黙の後、おもむろにさゆりは口を開いた。
「えっ……。それだけ? 理由になってないし。何がどうつらいのかも、よくわかんないんだけど。はっきり言えないんですかねぇ。……やっぱり、検査、やるべきかなあ、なーんて」
 さいあく、こいつ。この女が、ただ年上の生徒に付き従っているだけの存在だと思ったら大間違いだ。紛れもなく、香織や明日香に匹敵する悪意の持ち主である。

 涼子は、血管の切れるような思いをこらえ、一つ溜め息をつくと、乳房を押さえている両手を腰に添えた。香織がよく口にする『誠意』を示すためだった。
「えっと……、あの、毛の処理をしてしまったのは、腋だけです。信じてください。おしりの穴を見せるのは、恥ずかしくて、どうしてもできません。どうか、おしりの検査だけは、やめてください。お願いします」
 赤裸々に言葉を並べ立て、涼子は小さく頭を下げた。なおも、さゆりが文句を付けてくるようだったら、もう黙って背中を向けよう、と腹を括る。
 
 誰からともなく、女子生徒たちは失笑した。
 どうやら、涼子の無様な媚びようは、それなりに彼女たちの嗜虐心を満たしたらしい。
「ふうーん……。年下のあたしに頭下げるくらい、おしりの穴、見られたくないんだ? まあ、べつに、いいですよ。あたしだって見たくないし」
 涼子を直接服従させた優越感が、さゆりの口調には、嫌というほど含まれていた。
 この後輩の意識上から、年上の生徒に対する遠慮や躊躇が完全に消え去ったとしたら、下手をすると、香織や明日香よりも、たちの悪い存在となるのではないか。そんな予感が脳裏に浮かぶと、涼子は心胆を寒からしめられる思いがした。



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