バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十章〜波及
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「南さんさあ……、今度は、そのシャツの襟のところ、口に咥えてよ。苗字がこっちに見えるように広げてさ。滝沢さんと仲良くなりたいんでょ? 仲良しの、し・る・し」
呆然と立ち尽くしていた涼子は、訳がわからず、香織を直視した。
目が合うと、香織は、ウインクでもするかのように口元を歪める。
そして、その隣の後輩は、うきうきした様子でカメラを構えていた。
うそでしょう……。そんなの。
裸出した全身の、ありとあらゆる部分が冷たくなるほど、体温が急激に下がっていくのを感じる。
「いやぁ……。できるわけないでしょ、そんなの。滝沢さんのことは、関係ないじゃん」
「はあ!?」
香織が、眉間にしわを刻み、聞き捨てならないというように声を発する。
「あたしたちとの約束破って腋の処理しておいて、なに言ってんの? ホント、ムカつくんだけど……。これは罰なんだから、拒否なんて絶対許さないよ」
「南せんぱーい。あたしも、頭にくるんですけどー。反省してないなら、おしりの穴、今から調べましょうかねえ。調べられたいですかあ?」
香織とさゆりは、まさに取り付く島もない。
だが、それでも涼子がためらっていると、香織の怒号が耳朶をなぶった。
「襟のところ、口で咥えろって言ってんの! とっととやれよ!」
びくりと肩が竦み、涼子は、後先のことを考える余裕を失った。
サイズを合わせるように体操着を上半身に当て、赤く縁取りされた丸首の部分を、そっと口に含む。
「うっわー……。南せんぱい、まん毛だけ見えてて、なんかエロい……。ってゆうか、汚らしい」
「はい、南さん。にっこり笑ってカメラのほうを向いてー。仲良しのしるしだから」
香織は、今しがた怒鳴ったのが嘘のように、上機嫌な声で要求する。
涼子は、耳を疑った。冗談でしょ、ふざけるのもいい加減にしてよ。
だが、香織の無言の圧力は凄まじく、涼子は、引きつる頬を動かして『笑み』の形を作り、カメラを持つ後輩を見やった。
陰毛を晒した格好で、道化を演じさせられる屈辱感。どうしようもなく頬が紅潮してしまう。
「きゃーっ! りょーちんの、へんたーい。……気持ちわるぅーい」
「南せんぱい、もろストーカーって感じなんですけど……」
さゆりと明日香が、好き勝手にはやし立てる。
もはや、涼子の頭の中は、混乱の極致だった。
どうしよう、どうしよう。これ、滝沢さんのものなのに。わたしが不甲斐ないせいで、あの子に迷惑がかかっちゃうよ。
涼子のもっとも怖れていたことが、現実に起ころうとしていた。
関係のない、第三者への波及。
涼子の汚辱と香織たちの悪意とが融け合う黒い闇は、より深くなり、そして際限なく広がっていくのだった。
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