バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十二章〜慟哭
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 少女たちのきんきんとした笑い声は、しばらく続いた。
 いったい、何がそんなに可笑しいのと、真剣に問い質したくなる時がある。その答えについては、もはや、嫌というほど思い知らされてきたはずなのに。
 つまり、南涼子は、未だに戸惑いを禁じ得ないのだった。想像も及ばぬほどの悪意を持った人間が、同じ高校に在籍しており、今、自分が、その者たちに取り囲まれているという現実に。

 股の下で揺れる体操着が、再び、剥き出しの股間に宛がわれる。
「どう? 南さん……。これって、いいアイディアでしょ? なんて言うか、滝沢さんに対してさ、大胆に、すべてをさらけ出した気持ちになって、明日っからは、なんでも打ち解けて話せるようになるんじゃないかな?」
 吉永香織は、哄笑の余韻に浸っているような、うっとりとした顔で言った。
 ふざけきった嫌味なのに、またしても心を揺さぶられてしまう自分がいるのだった。
 陰毛をくすぐるように恥部と触れ合う、クラスメイトの体操着。
 滝沢さん……。もう、あの子に話しかけることなんて、後ろめたくて、できっこない……。それどころか、教室で、顔を合わせることも恥ずかしい……。
「そんなふうには……、あんまり、思わないです」
 涼子は、消え入りそうな声で、うやむやに答えるしかなかった。
「ええ……? なんか、ちょっと残念……。効果がなかったなんて」
 なにやら、香織は、おもむろに涼子の右肘をつかんできた。そして、目を細め、ささやくような声で言葉を継いだ。
「じゃあさ、こうしたら、どう?」
 次の瞬間、脳裏に火花が散り、意識が飛びそうになった。
「はあぅ……!」
 思わず奇声を発し、息が止まる。
 うそ……、いや。これって……。
 目で確認するまでもない。今、体操着の布地が、陰唇もろとも性器の割れ目に食い込んでおり、その上部にある、針のように鋭敏な神経が、ぎりぎりと圧迫を受けているのだ。それは、思春期の女としては、当然のこと、身に覚えのある感覚である。
 なんで……、なんで学校内で、こんなことされなきゃいけないの……。裸出した全身の肌が、ぷつぷつと粟立っていくのを感じる。
 涼子は、愕然として、その行為を行っている女の顔を見下ろした。怖ろしい形相だった。香織は、目を見開いて涼子の顔を凝視している。まるで獲物を狙う爬虫類のような、ぎらぎらとした眼光を湛え、口もとは、不敵な薄笑いに歪んでいるのだった。

「明日香、明日香、ほらっ! 南さんの体、押さえて!」
 香織が、興奮した口調で呼びかける。
 すぐさま、竹内明日香が、はしゃぎながら涼子の裸体に飛びついた。明日香は、恋人同士のように腕を絡ませてきたかと思うと、汚い笑い声を上げた。
「いやぁすごぉーい。ま○こにぃシャツがっ、おもいっきり食い込んでるぅ……!」
 もっさりと陰毛に包まれた涼子の秘部。今、その中心に、あるまじきことに他人の衣類が、深々と入り込んでいる。しかも、持ち主は、涼子が苦手意識を持っている女子生徒なのだ。
 
 明日香の小悪魔みたいな眼差しが、涼子の横顔に向けられる。
「きもちぃー? りょーちん、きもちぃい?」
 その言葉を聞いて、目の前が暗くなった。剥き出しの恥部に食い込む布地の刺激は、当然、時と場合によれば、女としての官能を呼び起こす類のものである。
 涼子は、取り乱して半狂乱に叫んだ。
「いやだっ! ちょっと放してよ!」
 明日香の腕を振り切ろうとしたが、彼女は、体重を掛けてしがみついており、腕から離れない。
「いー・やー・だー……」
 ふてぶてしさ全開に言い、明日香は、ぷくりと頬を膨らます。どうやら、何があろうと逃れられないよう、この間隙に、涼子の肉体を釘付けにしておくつもりらしい。
 対して、実力行使の封じられている涼子には、明日香を睨みつけることくらいしかできないのだった。
「うっわぁ……。なんか、南せんぱい、すごい鳥肌立ててる……。気持ちわるーい」
 後ろの石野さゆりが、苦手な虫でも見ているかのように言い、右腕を押さえる明日香は、くすぐったそうな声で笑った。



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