バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十二章〜慟哭
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「ねえ、もう、おかしいでしょう……? こんなことして、なんのつもりなの……」
 涼子は、声を絞り出し、主犯格の小柄な女に問うた。
 すると香織は、ふっと笑った。
「だって、南さんが言ったんじゃん。『これ』にあんまり効果を感じないって。滝沢さんのこと、苦手に思う気持ち、まだ克服できないんでしょ? だから、効果が出るように、刺激を強くしてあげてんの……」
 涼子は、言葉を失った。
「こうしてみたら、効果が出るかな……? 南さん、どう?」
 香織は、小声で言いながら、涼子の股間に食い込んだ体操着を、出し抜けに引っ張り上げた。
 いきむような呻き声を、涼子は発していた。
 あろうことか、香織の側に引かれた体操着の動きに応じて、今度は、背後のさゆりが、それを引っ張り返した。ほどなく、股間の割れ目に沿って、体操着の布地が前後に往復し始める。

「ちょっ、ちょっ……、ちょっと、やめて……」
 思考はめちゃくちゃに混乱し、涼子は、命乞いさながらに哀願する。
「やめて、じゃないでしょ……。どうなの、ねえ? 滝沢さんと、明日っから仲良くなれそうなの? あたしは、それが知りたいの。答えて、南さん」
 気が遠くなるほど馬鹿げた問いかけである。しかし、今はもう、質問の意図がなんであれ、香織の意に沿うように答えざるをえない。
「うん、できそう……。うん、わたし、滝沢さんと友達になるっ……」
 涼子は、誠意と熱意を示すように、何度も頷いていた。必死の形相で大嘘を吐く自分の顔は、どれほど醜いものだろうか。そんな思いが、かすかに脳裏をよぎる。
 香織は、にやりと笑った。
「それじゃあ、その意気込みを見せてもらいたいな……。南さん、今ここで、大声で、『滝沢さん、友達になってー!』って言ってみて。部活の時みたいな、大声でね」
 もう開いた口が塞がらない。
 その気色の悪い台詞を、大声で叫んだとしたら、それは狂人のごとき醜態である。自我崩壊の危機に瀕しているとはいえ、そんな自分の姿は、想像するのも忌まわしい。
 それに何より、滝沢秋菜の顔が、どうしても目の前にちらつくのだ。この場に本人がいないとはいっても、背筋の引きつるような後ろめたさを感じてしまう。

「どうしたの? 心を開いたなら、言えるでしょう? それとも、やっぱり駄目? 滝沢さんのこと、苦手なの?」
 息づかいが、長距離走のさなかのように荒くなっている。
 いつしか、涼子は、つま先立ちで伸び上がっていたのとは真逆に、腰を落として脚を踏ん張っていた。気の狂いそうな性感帯への刺激が、涼子の体勢を、自ずとそうさせたのだった。
 がたがたと震える両膝を内側に曲げ、おしりを後ろに突き出すようにして、醜悪極まることに、全身が『く』の字の格好になっている。そのため、真後ろに立つ後輩からは、『検査』を免れていた肛門までもが、丸見えの状態なのだった。

 もはや、この場にいないクラスメイトの存在など、気にしてはいられない。
「滝沢さんっ、友達になってぇっ!」
 涼子は、吐き出すような思いで叫んだ。
 言ってしまった……。かっこわるい……。死んでも本人には聞かれたくない台詞である。



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