バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十二章〜慟哭
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「ちょっとぉ! おしり、こっちに突き出さないで下さいよ! きったない……。次、さっきみたいに、おしりでぶつかってきたら、一個上とか関係なく、あたしも怒りますよ」
 事実、再び腰を引きだした涼子の臀部が、さゆりの体に迫りつつあった。だが、後輩の罵倒が耳に入っていても、もはや、この醜悪な格好を恥じらっている場合ではないのだった。
「さゆりがぁ、嫌がってんだからぁ……、ちゃーんと立ちなよっ。汚いってよっ……」
 未だ不機嫌な表情の明日香が、涼子の右腕を抱え上げ、背筋を伸ばさせようとする。
 だが、涼子は、唸り声と共に、右腕を脇に引いた。
 たちまち、明日香の眼差しが険悪になる。
「はぁ? なにぃ、その態度……。ムカつく……。オ・マ・エのからだ、きったねぇし、くせぇーし、ふけぇつなんだよ……。みんなっ、触りたくないって言ってんのぉ!」
 裸になっている同い年の同性を、もっとも傷つけるような言葉を、明日香は、腹立ちに任せて並べ立てた。だが、涼子が無反応でいると、それが、なおさら癇に障ったらしい。
「ねぇー……。オマエさぁー、部活やってるときぃ、じぶんがキャプテンでぇ、かっこいいとか思ってんのぉ? あたし、そばで見ててー、チョーキモかったんだけど……。いっつもハアハアいってるしぃ、いばってるしぃ、しかも、あっせくさいし」
 日々、涼子が、青春を捧げて打ち込む部活動。その時の勇姿を侮辱されるのは、たとえ、いかなる恥辱の炎で炙られているさなかでも、聞き捨てならない。はずだった……。
 
 しかし、今、涼子の意識は、別のあることで、完全に占められていたのだ。
 それは、ある意味、涼子が、女として極めて健康的な体である証かもしれなかった。
 二度にわたり、体操着に摩擦され続けた下腹部には、いつしか熱が集まっていた。そして、その熱くなった内部から、生温かい何かが、体外へと滲み出していくのを感じるのだ。
 うそ……。うそでしょ……。
 顔から火が出るほどに、頬が紅潮してしまう。涼子は、空前絶後のパニックに陥った。
 信じられない……。どうしよう。もし、この女たちに気づかれたら……。
 恥ずべき反応を起こしている自分の肉体が、心の底から恨めしい。こんな穢らわしい女の器官など、切り取って無くしてしまいたい、とすら思う。
 止まって……、止まってよ、もう……。
 しかし、涼子の悲痛な願いとは裏腹に、熱を帯びた女性器は、脆弱なまでに、じくじくと体液を漏らしていた。
 股間を前後に往復する体操着を、なんとか下へ押しやろうと、涼子は左手を宛がう。掌の中で、嫌な感触が走った。もうすでに、体操着の、特に赤い丸首の部分には、涼子の垂れ流したものが染み込んでいて、ぬるぬると掌を滑るのだ。
 涼子は、泣き声を上げそうになっていた。頬や瞼が、ぴくぴくと痙攣しだす。
 いやだ……。これ、滝沢さんが着るものなのに……。本当に、本当に、汚しちゃった……。



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