バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十三章
隔絶された世界
7



 ぐにゅっと乳房の肉が潰されるたび、セーラー服越しに、明日香の胸の膨らみも体に伝わってくる。まるで、女同士で性行為の真似事をしているかのような感覚に、気の狂いそうな生理的嫌悪を覚える。裸出した乳房には鳥肌が立ち、意思とは裏腹に、つんと乳首が突き出ていた。
「お願い……。明日香……、もうやめて……」
 涼子は、とうとう涙声で言った。拒絶や抵抗ではなく、哀願。それは、涼子に残された最後の権利だった。
 
 聞き入れたのか、それとも飽きたのか、明日香は、おもむろに体の動きを止めると、今一度、涼子の裸体を抱き込んできた。
 息の詰まるような体の密着。鼻と鼻がぶつかりそうになる。
 吹きだすのを堪えているような明日香の顔が、涼子の視界のすべてとなる。
 トップモデルにも負けない美貌だった。こんな美少女に、自分の顔を覗き込まれること自体が恥ずかしいと、劣等感を抱いてしまうほど……。しかし、それだけの美貌であるがゆえに、なおさら、この行為が不健全で、不気味で、そして許し難かった。
 
 明日香の吐く息が、まともに顔に掛かかって不快だ。しかし同時に、涼子の息は、それより遙かに激しく、彼女の顔に当たっているはずだった。余裕綽々とした明日香とは真逆に、精神的に極限まで追いつめられている涼子は、喘ぐような荒い息遣いをしていたからだ。口臭を気にするような余裕もない。
 背中を押さえるひんやりとした手が、じわじわと下降していき、あろうことか、ついには、おしりの曲線を撫で回し始める。
 総毛立つ思いがし、涼子が顔を歪めると、明日香のあの、笛の音のような耳障りな笑い声が発せられた。超至近距離ということもあり、いつにも増して忌々しい響きだった。
 
 自分を騙した憎くて仕方のない女に抱きつかれ、何の抵抗もできないことほど、惨めで悲しいものはない。
 そして、変態的で不潔な行為をしてくるのは相手なのに、実際には、相手は至って清潔で乱れることもなく、自分ばかり下品で汚らしい存在にさせられているような気がして、そのことが、泣き出したいくらい屈辱的だった。
 渇き切り、粘ついた唾液が糸を引くような口の中から、せわしなく吐き出している、熱い息。刺激を受けてしこった剥き出しの乳首が、セーラー服の胸の膨らみを突いている。恥部をきつく押さえた指先には、滲み出した体液でべとべとになった陰毛の感触がある。ひんやりとした指に、おしりの割れ目をなぞられた時には、あの、体操着にこびり付いた大便の残滓を思い出してしまった。
 恥じらいに満ちた思春期の少女とは、かけ離れた姿。わたしだけ、獣か家畜みたい……。
 これでは美女と野獣ではないか。そんな嫌なイメージも脳裏をよぎる。
 惨めだった。惨めで、悲しかった。
 ちゃらちゃらとした明日香だが、ひょっとすると、そういった涼子の心理まで見抜いた上で、こんな真似をしてきているのかもしれなかった。

「……んんー?」
 どんな気持ち、と問う愉悦に満ちた声。
 眼前で蠱惑的な笑みを浮かべる女に、憎悪の炎がたぎる。
 許さない……。よくも、わたしをはめてくれたね……。あんただけは、絶対に許さないから……。しかし、その感情の裏には、高校を卒業するまで、ずっと、こうして辱められ続けるのかという、どろどろの絶望感があった。
 
 と、その時、突然、唇に柔らかいものがくっついた。嘘のようだが、それは目の前の女の唇だった。
 えっ……。涼子は目を見開き、硬直した。女同士の唇が合わさる優しい感触。薄目で唇を突き出した少女の顔。
 何をされたのか、脳がはっきりと認識した時には、もう、明日香は顎を引き、小悪魔めいた含み笑いを見せていた。
 一拍遅れて、燃え上がるように涼子は取り乱した。
「ちょっと……! いや! やめてよもう!」
 ぼっと顔中が熱くなる。思い切り突き飛ばそうと、両手を股間から離すも、しかし、手の出せない相手であることに気づく。代わりに、両腕で明日香の体を押しやろうとするのと、彼女が自ら離れていくのが、ほぼ同時だった。
 明日香は、照れた素振りもなく、きゃははと、はしたない笑い声を上げる。視界の隅に、香織とさゆりも、唖然とした表情をしているのが映る。
 
 きたない……。さいあくだ……。
 涼子は堪らず、手の甲で何度も唇を拭った。すると、その右手の指先から、自分の体液の臭いが、つーんと鼻孔に流れ込んできた。惨めだった。もう泣きたかった。
 惨めさや悲しみが、破滅に向かって急速に膨らみ上がっていく。
「もーうぅ! いやぁぁ!」
 涼子は絶叫し、体を揺さぶって教室の床を踏み鳴らした。そばの机に八つ当たりしたいくらいだった。



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