バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十三章
隔絶された世界
8



 そこで、明日香が嬉しそうに言う。
「りょーちんの、ファーストキスの相手はっ、あたしにぃ、なっちゃったんだねえ」
 涼子は、殺意を込めて睨んだ。
 そういえばと、思い出した。途方もない時間が過ぎ去ったように感じられるが、つい一時間半ほど前のことだ。この教室で、衣類をすべて脱がされてからまもなく、話の脈絡は忘れたが、キスの経験の有無を、明日香に訊かれたのだった。小学五年生の時の経験があるが、ない、と涼子は答えた。その直後、明日香の顔に、何か意味ありげな表情が浮かんでいるのを見て、自分は、漠然と嫌な予感を覚えたことまで、頭の片隅に残っている。
 おそらく、あの時、明日香は思いついたのだ。未経験だという涼子の唇に接吻し、消えない記憶を刻みつけてやろうという、悪意に満ちた企みを。そして、それを今、難なく実行した。
 まさに美少女の面を被った悪魔だ。
 ぞっとするほど柔らかい明日香の唇の感触が、唇にこびり付いて離れない。女同士、しかも、自分を騙して地獄へと引きずり込んだ、この世でもっとも憎い女に口づけされたのだ。彼女の言うファーストキスではないとはいえ、この忌まわしい出来事は、終生、何彼につけて思い起こしてしまうような気がする。
 屈辱感と悲しみに、顔を掻き毟りたくなる。
「……もぉうぅ!」
 誰もいない方向に向かって、涼子は再び怒鳴った。しかし、こんな形でしか感情を爆発させられないことを、改めて痛感させられ、よけい惨めな気持ちなる。
 んっ……、くう……と、喉から涙声が漏れる。
 明日香は、愉悦にうるうるした目で、涼子を見つめながら、猫のような笑い声を出していた。
 
 が、そこで急に、ほとんど傍観者だった香織が、いやに苛立った声を上げた。
「なに、そんなに意識してんの? 明日香は、ちょっと、ふざけてやっただけでしょ? マジでキモいんだけど。なんか、顔も赤くなってるし……。キモ!」
 その毒々しい台詞は、香織の何か仄暗い感情の表れのような気もしたが、赤面していることを指摘され、涼子は、どぎまぎしてしまう。
「これ、もう一回持って。南さん」
 香織は、手近の机に載せておいた滝沢秋菜の体操着を、汚そうに両手でつまむと、涼子の体に突き出した。
「えっ……」
 涼子は、言われるまま受け取る。臭気の元を動かしたために、自分の恥の臭いが、ひときわ、むっと漂っていた。
「さっき、あたしたちがやったように、シャツの首の赤いところを上にして、自分で、ま○こに食い込ませて」
 不機嫌そうな香織が、冷ややかに命令する。
 涼子は、ごくりと生唾を飲み込んだ。もしかして、あの続きを再開しようというのか……。
 しかし、ぐずぐずしていると、香織は、たちまち怒り出しそうな雰囲気である。そうなったら、また、体操着の処分の件について蒸し返し、ねちねちと脅迫してくるだろうことは、目に見えている。
 
 耐える……。こんなことをするのは、絶対、今日までだから、耐える……。
 なんとか自分を励ましながら、涼子は、赤い丸首の部分が上にくるようにし、左右の袖のところを両手で持つと、左手を前にして、それを跨いだ。股の下で前後に張った体操着を引き上げ、性器に宛がう。自分の体液に濡れた布地が、性器の肉にぴたぴたと触れた。
 これで、どうすればいいの、とおそるおそる、視線を香織に向ける。
「ま○こに食い込ませろって言ったでしょ!? なんで、一度できっちり、やろうとしないわけ? 嫌なことを誤魔化して、逃げようとする態度、すごいムカつくんだけど」
 香織が当たり散らすには、今の無力な涼子ほど都合のいいものはない。
 涼子は怯えさせられ、ためらう余裕もなく、体操着の前方を引っ張り上げた。自分の体液が染み込み、ぬるぬるとする布地が、まだ潤いの残る性器に食い込む。すると不覚にも、脊髄を這う妖しいものを感じてしまった。
 まさか、と涼子は思う。今度は、自分自身で体操着を操って、性器を刺激しろとでも言うのだろうか。つまり、自慰行為の強要である。



次へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.