バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十三章
隔絶された世界
10



 香織にとって、自分の力で涼子を服従させることが、何よりの薬らしい。さっきまでの不機嫌な表情とは別人のように、そのつり上がり気味の双眸は、ぎらぎらとした愉悦で光っていた。
「南さーん……。写真撮るんだから、そんな引きつった顔してちゃあ、だめでしょう」
「そうですよね……。今のせんぱいの顔だと、知らない人が写真を見たら、なんだか、無理やり、やらされたんじゃないかって、誤解しちゃうかもしれないですしぃ」
 香織とさゆりは、寄り添うようにしてせせら笑っている。

「そうだっ、南さん。あのさ……、かわいこぶった顔してみせてよ。ちょっとだけ、ぷーって、ほっぺたを膨らませる感じで……。それで写真撮るから。ほらっ、やってよ」
 もはや、横隔膜が痙攣するような悲しみが湧き起こってくる。
「頑張って、南さん……。写真撮り終わったら、今日のところは終わりにしてあげる……。あっ、もちろん、さゆりが拾ってきたお金、六万と、体育倉庫の地下で撮った、南さんの恥ずかしい写真も、持って帰っていいからね……。だから、やって。かわいこぶった顔。ほっぺた膨らませて。はやく」
 香織に言われて、今日、自分が、服を脱ぐことになった訳を思い出す。先日撮られた、全裸の写真による脅迫と、そして、盗んだ合宿費の一部を返すという餌だった。
 今思えば、服を脱ぐ以外の選択肢が、あったのではないかという気がしてならない。
 しかし、もう何もかもが遅かった。
 心の内では、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちている。だというのに、涼子は、ぷっくりと頬を膨らませ、気持ちとは真逆の表情を作るのだった。人間として、もっとも情けなく、卑しいことをやっている気がする。いや、もう人間ですらないのかも……。

「いいよー、いいよー、南さーん……。じゃあ、少し顎を引いて……。そう、そう。そんで、ちょっと上目遣いにして……。うん、うん。そんで、もっとま○こにシャツ食い込ませて……」
 香織の悪趣味な注文にも、もはや、涼子は唯々諾々と従うほかなかった。左手、つまり前の手で引っ張り上げた体操着の布地が、恥部の鋭敏な部分を、ぎりぎりと圧迫する。またも、膣から生温かいものが滲み出してくるような感覚に苛まれるが、それでも涼子は、作った表情を崩さずに踏ん張っていた。

「超ウケるんだけど……。これ、やばくない……? 滝沢さんのシャツでオナニーしながら、かわいこぶってる、変態、ミナミリョウコ」
 香織は、興奮気味に涼子を指差した。
「きもちわるーい……。これ、もろに、ストーカーの決定的瞬間ですよね」
 さゆりは、いよいよ、涼子の狂気的な姿にカメラを向けた。
「やーん、りょーちぃん……。見てるこっちがぁ、恥ずかしくなってくるぅ」
 明日香が、細身の肩を抱いてしなを作った。
 少女たちの嘲笑が降り注ぐ中、涼子は、カメラ目線を維持し続けた。
 目の縁に、涙が滲んだ。一筋の腋汗が、つーっと横腹を伝う。
 
 媚びるような眼差しを向け、嬉し恥ずかしそうに頬を膨らませた、ショートカットのボーイッシュな少女。一糸まとわぬ姿で、その恥部には、逆三角状に茂る陰毛の領域を二つに割るように、他人の体操着を食い込ませている。
 後輩の手で、シャッターのボタンが押される。涼子の高校生活の光が、完全に潰えた瞬間だった。



次へ

登場人物・目次
小説タイトル一覧
メニュー
トップページ

PC用のページはこちら

Copyright (C) since 2008 同性残酷記 All Rights Reserved.