バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十四章
自己保身
9



 教室のドアを開けて入る。体育の授業は体育館で行われるが、まだ七、八人の生徒が残っていた。それでも、皆、着替えは終わっているようだ。丸首の部分と袖が赤く縁取りされた、半袖の白いシャツに、紺色のハーフパンツ。香織から今日の日直だと教えられた、雨宮夏希の姿もあった。
 
 自分は今、取り憑かれたような顔をしている。そう思った涼子は、意識して頬を持ち上げ、夏希のところへ歩いていった。
 夏希は、バレー部員らしく、涼子と同じくらいのショートヘアで、すらりとした体型をしている。
「あれ? 涼子……。どうしたの? もう、教室、閉めちゃうよ」
「ああ、うんっ。今日、日直、夏希?」
 涼子は、自分に鞭打って軽やかに訊いた。
「そうだけど……?」
 夏希は、くりくりとした目で涼子を見る。あの吉永香織は、この子には話しかけることすら、できないという。それが、なんとなくわかるような、わからないような……。
「あのさ……、ちょっと用があって、これから職員室に行って、それから着替えて授業に行くからさ、わたしが、鍵、閉めていくから」
 自分でも意外なくらい、あっさりと口から嘘が出た。
「そっか。じゃあ、鍵、お願い。なるべく早く来なよ、今日もバスケ、試合だから」
 夏希は、詮索することはせず、不審に思った様子もなく、涼子に鍵を手渡した。
「オッケー」
 友人を騙したという罪悪感を感じるものの、涼子はそれを押し殺し、にこりと笑って見せた。これから涼子がやることを知ったら、間違いなく夏希にも軽蔑されるだろう。
 幸か不幸か、このやりとりに注意を向けている生徒はいなかった。全員が教室から出て行くと、涼子は時計を見た。あと三分ほどで、五時限目の授業の鐘が鳴る。時間は掛けられない。
 
 涼子は、念のため、教室の前後のドアの鍵を内側から閉め、電気を消した。薄暗い教室で、ひとり溜め息をつく。廊下から聞こえてくる騒がしいお喋りの声が、身に染みる。周囲の同い年の少女たちが、賑やかであればあるほど、自分の陰鬱さ、惨めさが際立っていくように感じられた。
 
 窓の外に目を向けた。抜けるような青い空を背景に、ゆったりと雲が流れている。遙か遠くを飛ぶ飛行機も、小さく見えた。
 わたしだって、色んな目標を持っているの……。大学も行きたい。スポーツ推薦も考えてる。もっともっと自分の可能性を見つけたい。わたしは、自分の人生が、大事……。



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