バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十五章
クラスメイト
1



 もう二度と、滝沢秋菜に話しかけることはできない。いや、それどころか、あまりに後ろめたくて、今後、彼女の顔は、まともに見られないかもしれない。南涼子は、そんなふうに思っていた。
 帰りのホームルームが終わるまでに、ハプニングは起こっていない。つまり、滝沢秋菜が、何らかの異変に気づいた様子はなかった。まるで恋の対象のように、彼女の一挙一動を目で追っていた涼子には、確信が持てる。封筒から一枚の写真を、同じクラスの生徒が抜き取っているなどとは、夢にも思っていないはずだ。
 ごめんね、滝沢さん……。もう百回以上、心の中で謝り続けているような気がする。だんだん、それにも疲れてきた。
 
 写真の受け渡し場所である、さっきのトイレへと、涼子は向かっていた。肩に提げたバッグの中には、あの写真が入っている。最後の葛藤が生じていた。盗んだ写真を本人に返すのは無理だが、あの三人に手渡すのは止めるという選択肢がある。黙って家に持ち帰り、処分してしまえばいい。そして、腹をくくる。これから先、何が起ころうとも、自分ひとりが犠牲になることで、すべてが終わる……、と。
 しかし、そんな悲劇のヒロインめいた思考は、ふわふわと霧消していった。もう、身も心も疲れきっていて、感覚が麻痺していた。なにやってんだろう、わたし……。ふふっ。こんな女に、部活で、一、二年生の子たちを叱ったりする資格は、ないよなあ。やめちゃったほうがいいのかも……、キャプテン。
 
 涼子は、半ば夢うつつの状態で、薄暗い廊下を歩き、トイレのドアを押した。しかし、その後、想像だにしない事態に直面し、涼子の意識は、叩き起こされることになるのだが……。



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