バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十五章
クラスメイト
2



「へえー、ちゃんと盗ってきたんだ?」
 写真を受け取った吉永香織は、ぎらりと目を光らせた。その口もとから、くっくっくっと小さな笑いが漏れる。
「まさか、あの、真面目で正義感の強い南さんが、本当に、写真を盗んでくるとはねえ……」
 香織は、高らかに笑った。そして、意味ありげなことを言いだした。
「これで、南さんが、自分のことしか考えない人間だってことが、証明されたよね。南さんの化けの皮が、剥がれたって感じ……」
 要するに、涼子が自己保身に走って、悪事に手を染めたことを、香織は面白がっているのだ。今さらながら、涼子は、自分のしたことが恥ずかしくなり、肩に提げたバッグをいじったり、髪の毛を押さえたりと、無意味な動作を繰り返した。
「もう、南せんぱい、自分が助かるためなら、なんだってするつもりなんでしょうね。こういう時に、ずるい本性が現れるって、なんか、サイテー」
 石野さゆりが、汚物を見るような目を涼子に向ける。
「りょーちん、ちょっと幻滅したぁ……。あたしぃ、ホントはぁ、りょーちんなら、自分を犠牲にしてぇ、滝沢さんのこと、守ると思ってたのにぃ」
 竹内明日香が、わざと悲しげな眼差しをして言い、彼女たちは、揃ってくすくすと笑った。
 頬が紅潮していくのを、涼子は感じた。本当の『恥』というものを知った気がする。これまで、彼女たちには、服を脱がされ、あるまじきことには、性器や肛門までも見られ、文字通り恥を晒し続けてきた。だが、それでも涼子の中には、自分は、恥ずべきことは何もやっていないという、矜持が残っていた。恥ずかしく、見苦しく、醜悪極まりないのは、むしろ、この女たちなのだと。しかし、今回ばかりは違う。醜い自己保身を、人にあざ笑われるのが、こんなにも恥ずかしいものだとは……。ある意味、究極の恥なのではないかとすら、思われてくる。

「ごめんごめん、南さん。ちょっと意地悪な言い方しちゃったね。写真頼んだのは、あたしたちだもんね。気を取り直してよ。まあ……、これで、南さんも、あたしたちと同類……、いや、あたしたちの、仲間入りって感じかな?」
 香織は、嬉しくて堪らない様子で喋る。だが、手に持ったその写真をまじまじと眺めると、その表情が一変し、しかめっ面になった。
「あー、なんかムカつく。滝沢さんが愉しそうにしてる顔を見てると、胸がムカムカしてくる。ぶっちゃけ、南さんも、ちょっとはそう思うでしょ? ねえ、そうでしょ?」
 どうやら香織は、程度の差こそあれ、涼子も、本心では滝沢秋菜のことを嫌っていると、睨んでいるらしい。苦手イコール嫌い、と短絡的に考えているのだ。
 涼子は、黙って首を横に振った。わたしは、おまえみたいに、ひねっくれてないんだよ……。

「この、青い服着てる人が、滝沢先輩ですよね? やっぱり、プライドが高そう……。でも、こういう人のほうが、やりがいがあって面白いかも……」
 さゆりは、写真を覗き込み、薄笑いを浮かべた口もとを、手で押さえた。
 その言葉を聞いて、涼子は、背筋の寒くなる思いがした。なんという陰湿さだろう。もうすでに、その後輩の頭の中には、上品で頭脳明晰な年上の生徒が、年下の自分に服従するという、そんな薄汚い青写真が描かれているのかもしれない。



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