バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十五章
クラスメイト
4



「南さん、ごめんね。実を言うと、もう一枚、使う写真があるんだよね……。『これ』は、決して変な意味じゃなくって……、ネットとかで、ほかに、いい写真があったらよかったんだけど……、まあ、探すのが、面倒臭くってさ」
 そう言って、香織は、バッグから一枚の葉書サイズの写真を取り出した。
 涼子は、それを見て震え上がった。想像だにしない展開だった。そこに写っているのは、全裸の涼子なのだ。体育倉庫の地下で、いつだったか、『犯罪者みたいに』と両手を頭の後ろで組まされ、その屈辱極まる姿を、正面から撮られたことがあった。その時のものだ。
 問題は、なぜ、このタイミングで、香織がそれを出してきたか、だ。
「ねっ、ねえ……、なんで……、それ、なんで……、どうするの……?」
 脈絡なく襲いかかった恐怖に、涼子の声は、今にも泣きだしそうなものになっていた。全裸の涼子の写真と、滝沢秋菜の教科書、それに、ハサミとノリと油性マジック。その組み合わせからは、息苦しいほど、不吉なものを感じてならない。
 さゆりと明日香は、そんな涼子の反応を面白がって、くつくつとせせら笑っている。が、香織だけは、嫌みたらしい笑みを浮かべるでもなく、取り澄ました表情で、こちらを眺めていた。
「なんで、ひとりで勝手に怯えてるわけ? 変な意味じゃないって、あたし今、南さんに言ったでしょ?」
 香織が手に持ち、ひらひらとさせているその写真に、視線が吸い寄せられてしまう。本当なら、目を背けたいところなのに。写真の中の涼子は、両腕を上げさせられているので、乳首はおろか、逆三角状に茂った陰毛までも見せている。写っているのが自分とは認めたくないほど、ショッキングな光景である。そんな写真が、クラスメイトへのメッセージに使われようとしているのだ。落ち着いていられるわけがない。

「南さんが『思ってるようなこと』には、ならないから安心して。だから、あたしたちが、メッセージを作り終わるまで、口を挟まないで、黙ってて」
 いっさい抗議は受け付けないというふうに、香織はぴしゃりと言った。
「さっ、始めよっ、さゆり」
「はーい」
 香織とさゆりが、涼子などお構いなしに、ごそごそと作業を開始する。
 
 そんな……。わたしの裸の写真なんて……、いったい、どうするのよ……。涼子は、気が気でなく、おろおろしながら、彼女たちの手の動きを見張っていた。
 手の空いている明日香は、うろたえる涼子に向かって、どこか優しげに微笑みかけていた。



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