バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十七章
部活の練習に関すること
7



 涼子の断固とした拒絶に、冷ややかな沈黙が流れた。
 香織は、ブルマを引っ込める。
「あーそう……。どうしても、はかないって言うんだ? それだったら、それでもいいけど……。でも、なんか、ムカつくから……」
 香織の口もとが、にやりと歪んだ。
「今度……、滝沢さんの机の中に、あの『メッセージ』に貼ったのと同じ、南さんの裸の写真を、入れておくことにしよおっと。もちろん、その時は、南さんの顔の部分を、切り取ったりはしないで。『メッセージ』に写ってた裸は、南さんだってことを、滝沢さんに、教えてあげなくっちゃ」
 顔の部分が切り抜かれた、全裸の被写体。その正体が、南涼子であることを示す決定的証拠が、滝沢秋菜の元に……。
 それを見た秋菜は、こう思うだろう。『やっぱり、あの裸は、南さんだったのね』と。その時、彼女の胸の内に生じるのは、涼子に対する怒りや嫌悪感、そして軽蔑の念だ。
 彼女のそんな視線が、自分に突き刺さってくることを想像すると、恐怖に、背筋を貫かれる思いがした。
「あー、あと、ついでに……、南さんの、まん汁で汚れた、滝沢さんのシャツと、南さんが、滝沢さんのシャツで、オナニーしてるのを写した写真も、一緒に、滝沢さんの机の中に、入れておくよ。南さんが、変態のストーカーだってことも、滝沢さんに、知ってもらわないとね……。いいんだね? 南さん」
 香織たちの握っている、切り札だった。
 もしも、それが、現実のものとなったら、どう考えても、涼子の高校生活は、破滅する。とてもじゃないが、もう、教室にはいられなくなる。学校に通い続けることは、不可能としか思えない。つまり、そこで、涼子の人生は、一気に暗転することとなるのだ。
 涼子は、頭の中が、ぐわんぐわんと揺れるような感覚に襲われた。
「やめて……。それは、やめて……」
 わたしの人生を奪わないで、という、余裕のかけらもない声が出ていた。
「やめてって言われてもねえ……。南さん、どうしても、これをはいて、練習は、したくないんでしょう? あたしたちが、南さんのためを思って、用意してあげたのに。それだと、こっちも、ムカつくし……」
 香織は、指でつまんだ小さなブルマを、ひらひらとさせる。
 
 これまで、こうして香織たちに脅迫され、自分は、女としての、そして人間としての誇りを捨て、涙を呑んできた。あの、一生忘れられない恥辱の数々。しかし、今回は、これまでとは決定的に異なる点がある。裸にさせられるようなことはないとはいえ、現場は、涼子と香織たちだけという、密室的な場ではないのだ。体育館のフロア。そこには、何の事情も知らないバレー部の部員たちがいる。部員たちの中で、自分ひとり、時代錯誤のブルマをはき、さらには、そのブルマからパンツのはみ出た格好で、練習を行うなど、想像もしなくない。
 しかし、このまま、それを拒絶し続けると……。香織たちの切り札が炸裂し、自分は、すべてを失ってしまうかもしれないのだ。
 どうしよう……。どうしたらいいんだろう……。涼子は、途方に暮れていた。



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