バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十八章
醜い心
1



 地下から階段を上がりきると、恐怖は、一段と激しくなった。
 前を行く竹内明日香が、体育倉庫のドアを、がらがらと開けた。夕方の穏やかな陽光が、暗い倉庫内に差し込んでくる。
 表に、出る。そうしたら、もう、体育館までは、ものの十秒ほどだ。
 怖い……。
 南涼子は、その場から動けなかった。立ち止まっていると、膝の小刻みな震えが、全身に伝わってくる。
 明日香は、早く行くよ、と急かすでもなく、じっとこちらを見つめている。恐怖に立ちすくむ涼子を、せせら笑うように。

「ねえ、明日香……」
 涼子は、口を開いた。
「うーん?」
 明日香は、ちょこんと首を傾げる。
「お願い……。せめて、毛……、毛だけは、どうにかさせて……。いくらなんでも、これじゃあ、練習に戻れない……」
 あの吉永香織とは違い、明日香には、最後の良心が残っていると信じたかった。
 明日香は、こちらに歩いてきた。
 着ているTシャツを、ぺろりとめくり上げられる。パンツもはいておらず、涼子の下腹部を覆っているのは、布切れみたいに小さなブルマの布地のみ。ブルマの両脇から、もさもさとはみ出ている陰毛。
 明日香は、くすりと笑った。
「毛、どうにかしたいって、どうしたいの?」
 優しい口調で訊かれる。
「えっ……、それは……。あのっ、はみ出てるのを、処理したくて……」
 言っていて、ひどく惨めな気持ちになる。
「もしかして、手で……、むしるつもりぃ?」
 涼子は、少しためらいつつも、小さくうなずいてみせた。どこかのトイレで、それを行いたかった。
 沈黙が落ちる。
 
 明日香は、口をもごもごさせるような仕草をして、何かを考えていた。そして、涼子の耳元にささやくように言う。
「じゃあ、あたしが、今ここで、りょーちんのまん毛、ちょっと抜いてってあげる」
 なっ……。
 涼子は、思わず、明日香と目を見合わせた。
 暗がりの中、明日香の瞳が、不気味に光って見える。
「いや、自分でやりたい……」
「だめ。りょーちんは、まん毛とかぁ、自分で処理はしないって、香織との約束があるでしょっ。でも、あたしがやるなら、いい。あとでぇ、香織にも、言っておいてあげる。りょーちんが、あまりに可哀相だったからぁ、あたしが、まん毛、抜いてあげたのぉ、って」
 自分の陰毛を、明日香が、抜く……。手で……? その光景を想像し、背筋に、ぞわぞわと悪寒が走った。しかし、一瞬、考えてしまう自分がいた。このままの状態で、体育館に向かうよりは……。だがそこで、何を考えているんだ、と思い直す。他人に、それも、こんな気持ちの悪い女に、陰毛の処理を頼むほど、わたしは、プライドを失ってはいない。
 涼子は、黙ってかぶりを振った。
「うん? まん毛、抜いていかなくって、いいのお?」
 それには、答えなかった。
「そっか……。いいんだね、りょーちん……。じゃあ、最後に、確認しておくよぉ」
 そう言って、明日香は、すーっと体勢を低くした。
「えっ、なに……」
 股間に、明日香の顔が近づいたことで、涼子は、Tシャツの前すそを下に引っ張った。
「ちゃんと見せなさいっ。まん毛が、どのくらいはみ出てるか、確認するんだからっ。りょーちんが、もし、こっそりトイレとかで、自分で、毛を抜いたりしたらぁ、すぐにわかるように」
 いったい、涼子のことを、どれだけ追いつめる気なのだろう。
 Tシャツを押さえている手を、引き剥がされる。
 そして、明日香の顔が、股間の至近距離に迫る。臭いまで嗅がれるような近さだ。
 涼子は、正面、開かれたドアの外に、目をやった。この異常極まりない光景を、誰かに見られてはいないだろうか、と。
「ま○こに、ブルマ、思いっ切り食い込んでるぅ。やらしぃ……」
 ブルマの布地越しに、恥部の肉を、ぷにぷにと指で突かれる。
「ちょっと、やめて!」
 涼子は、たまらなくなって腰を引いた。
「じっとしてっ」
 明日香は、両手を伸ばし、涼子のおしりをぐっとつかんできた。極小のブルマからはみ出た、おしりの柔肌に、明日香の手が、べったりと張りついている。そうして、無理やり、腰を前に引き戻される。
 が、明日香は、その手を放そうとはしない。そのまま、むき出しになっているおしりの肉を、ぐにぐにと揉んでくるのだった。
「んんー?」
 彼女の上目遣いの眼差しは、涼子に、言葉を伝えていた。こうして、揉んだりすることができるくらい、おしりの肉も、ブルマからはみ出しちゃってるんだよ……。
 自分の体の性的な部分を、好き勝手に触られる屈辱に、涼子は、唇を噛んだ。そして同時に、前だけではなく、後ろのほうも、いかに見苦しい状態であるかということを、改めて思い知らされる。
 おしりから、明日香の両手が離れた。
 明日香は、右手を、ふたたび涼子の恥部に当ててきた。肌にぴちぴちに張りついたブルマの布地が、恥丘の形状に、こんもりと盛り上がっている部分を、上下にそっと撫でられる。息苦しいほどの、どろどろしさ。やがて、その指先が、ずずっとブルマの外側に滑っていき、陰毛に触れた。人差し指と中指を、陰毛にからめて、きゅっと引っ張られる。
「いやぁ!」
 涼子は、叫び声を発した。グランドで練習する、テニス部やソフトボール部の部員たちの耳にも、届くような声だった。
 薄暗い体育倉庫内に、明日香の、笛の音のような笑い声が響いた。



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