バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十九章
しんしんと
3



 日の陰り始めた風景のなか、体育館の窓からは、室内の煌々とした明るさがうかがえる。ボールが床を叩く音も、バレー部やバスケット部と思われる勇ましいかけ声も、通常どおり聞こえてくる。そんな日常的空間に紛れ込んだ非日常性に、香織は想像を巡らす。
 香織が願うのは、バレー部のマネージャーである竹内明日香が、お目付役としての役目を果たしていることだ。そうすれば、あの、遠い憧れの存在だった女は、今頃、全身から火を噴くような辱めに遭っているはずだった。
 
 好奇の視線を一身に集めるような変態的な格好となり、それでいて、部活の練習着として着用するのに、ある程度の合理性を持つアイテム。香織たちは、そんなものを、ネット上で探したのだった。はなっから、スポーツ用品として販売されている商品など、眼中になかった。いかがわしいコスプレの通販サイトを巡っていて、香織は、あるサンプル写真に目を引きつけられた。二十歳前後と見られるモデルが、上は体操着のシャツ、下には紺色のビキニみたいなものを着けた格好で、嬉し恥ずかしそうな表情を浮かべて立っていた。それが、前近代的な体操着のブルマという衣類であることに気づくまでに、しばらくの時間を要した。なにしろ、その衣類は、肌を覆う面積が削られ過ぎていて、もはや、運動着としての体裁すら保っていないような代物だったからだ。どう見ても、その下に普通のパンツをはけるような余地はない。写真の中のモデルは、明らかに、それをじかに着用していた。見れば見るほど、生理的嫌悪感の湧いてくるような写真だった。そこで香織は、バレー部の練習着、白いTシャツに黒のスパッツ姿の涼子を、頭の中に思い描いた。そうして、モデルの下半身と同じ条件にするべく、涼子の体から、スパッツもパンツもはぎ取ってしまう。初めて目にした時は、衝撃を受けたほどの、発毛範囲の広い下腹部が露わになる。その部分に、モデルの着用している極小のブルマを重ね合わせると……。愉快な光景が浮かんだ。この商品を取り寄せようと、香織は決めた。明日香もさゆりも、同意した。サイズは、あえてMを選んだ。涼子のあの、日本人離れした大きなヒップを思い起こすと、L以上が妥当なのは明白だったが、それでは面白味に欠ける。かといって、Sだと、はち切れる可能性が高かった。生地が破れてしまっては、さすがに、それを着けて練習に行け、とは言えない。涼子を辱める享楽のために購入する品であるが、香織たちは、身銭を切るつもりなど毛頭なかった。もちろん、その費用は、涼子のバッグから盗んだ、バレー部の合宿費から支払ったのだ。
 
 先ほど、体育倉庫の地下で、その『プレゼント』が涼子に手渡された。香織たちの『好意』なのだから、涼子のほうは、それをありがたく受け取らなくてはならないのだ。それに着替え終えた涼子を前にして、香織は、実のところ小さなためらいを感じていた。ブルマをじかに着用した涼子の下腹部が、あそこまで悲惨なことになるとは、香織にとっても想定外だったからだ。涼子の陰毛の量には、毎度、驚かされるが、それ以上に、ブルマのフロントの部分の、いかにも寒々しい切れ上がりに、改めて唖然とさせられた。正面から見て、下腹部を覆う紺色の逆三角形の面積より、陰毛の黒い領域のほうが、あからさまに広いという状態だった。何も知らない生徒がそれを目撃したら、まず自分の目を疑うことから始めるだろうと、香織は想像した。それと案の定、Mサイズのブルマは、涼子の腰回りには、痛々しいくらい窮屈に見えた。肌と同化したように張りついた紺色の布地の表面には、恥丘のこんもりとした盛り上がりや、その下の、割れ目を挟む肉の形状さえもが、鮮やかなまでに浮かび上がっていた。その下腹部は、下手をすると、見る者にグロテスクな印象すら与えかねないほど、不潔感に満ちた有様を呈していたのだった。誤算……。香織は内心、涼子に対して、少しばかり申し訳なく思っていた。ごめん、南さん。まさか、ここまでひどいことになるとは、予想してなかったんだよね。でも……、せっかく買ってあげたんだから、その格好で練習に行ってよ。っていうか、絶対に行かせるからね。涼子は、泣き叫ばんばかりに激しく拒絶した。まともに知性を有する者として、当然の反応だったといえる。しかし、こちらは、涼子を好きに動かすことのできる『切り札』を握っているのだ。涼子の致命的な弱点に炸裂する爆弾の存在。その話を聞かされた涼子は、両手を膝につき、苦悶の声を漏らした。もはや、予定調和的ともいえる涼子の屈服である。地上への階段に向かう涼子の顔は、絶望の土気色に染まりきり、生気が消え失せていて、二十才以上も老け込んで見えた。あの焦点の合わない瞳の先には、どんなものが映っていたのだろう。これから自分自身を焼く、地獄の炎の赤々とした燃えさかりか。



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