バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十九章
しんしんと
16



 今。
 スマートフォンの画面には、午後、十時半過ぎの時刻が表示されている。
 香織は、勉強机の上で、両手の指を組んだ。
 
 時々、思うことがある。
 明日香は、ああ見えて、意外と、思慮深い人間なのではないか、と。たとえば、涼子を辱めている時。一見、気まぐれに振る舞っているように見える明日香だが、その実、自身の言動が、涼子の心理に、というよりは、同い年の女の子の心理に、どういう影響を与えるかを、きちんと計算しているようなフシがある。こういう言葉を浴びせられたら、さぞかしプライドが傷つくことだろう。あるいは、体のこの部分に触れられたら、羞恥心と同時に、強烈な劣等感をも抱くに違いない。そのような、悪意に満ちた計算である。つまりは、相手の身になって物事を考える、という思考法を、それなりに得意としているような気がするのだ。そんな明日香だからこそ、五人目の仲間候補の絞り込みに際しては、涼子にとっての、最悪の人選として、足立舞の存在を思い浮かべることができた。香織は、そう推量する。
 ひょうきんなようでいて、時に、ぞっとするほどの冷徹さをかいま見せる。それが、竹内明日香という女だ。どうにも、つかみどころのない、不思議な友人である。よくよく考えれば、自分は、彼女のことを、ほとんど何も知らない、という気がしてくる。……そもそも、である。なぜ、彼女は、香織たちの仲間に加わろうと思ったのか……? 刺激に飢えていたわけでもあるまい。なにしろ、歓楽街を歩けば、男たちが、引きも切らず声をかけてくるような、美貌の持ち主なのだ。面白おかしいことなど、学校の外に、山ほど転がっているはずである。にもかかわらず、南涼子を罠にかけて服従させるなどという、香織の、おどろおどろしい計画に、参加の意向を示した。しかも、そればかりか、涼子に付け入る材料を探すために、バレー部のマネージャーとして、日々、部員たちと行動を共にするという、途方もなく大変な役回りを、あっさりと引き受けてくれたのだ。
 彼女を、そこまで突き動かした、根本的な動機は、なんだったのか……?
 今までずっと、胸の奥底にわだかまっていた疑問である。だが、それについて、本人に尋ねる気にはなれない。なんとなく、その話をすると、気まずいことになりそうな予感がするからだ。お互い、相手に深入りするのは避ける。そうして、ほどよく距離感を保ってきたからこそ、自分と彼女は、それなりにうまく付き合ってこられた。今となっては、そう思う。
 
 何はともあれ、その明日香が推薦してくれた足立舞のことだが、彼女は、結果からいうと『落ちた』のだ。いや、正確には、まだ、そうと決まったわけではないのだけれど、あれは、落ちたも同然だった。



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