バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第十九章
しんしんと
19



 明日は、涼子に、どんなことをしよう。
 家畜以下。涼子を、そういう存在に貶めたいのだ。
 とりあえず、恒例となっている、体毛の生え具合のチェックは欠かせない。滝沢秋菜と足立舞も、その場にいることから、涼子が、これまで以上に激しい拒絶反応を示すのは、火を見るより明らかだ。だからこそ、やりがいがある。
 それが終わった後は、涼子に、この世の地獄と呼ぶにふさわしい責め苦を味わわせるつもりだ。
 香織には見える。
 涼子が、万力で頭蓋骨を締め上げられているような、そんな凄絶を極めた形相で、恥辱に身悶えているところが。
 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
 明日は、涼子のあの、耳をつんざくような絶叫が、陰鬱な体育倉庫の地下に、幾度、響き渡るだろうか。
 そうして最終的に、涼子は、地面に崩れ落ちて動かなくなり、ただの汚らしい肉塊と化すのだ。それが、涼子の高校生活、最後の姿である。
 
 ああ、愉快、愉快。
 香織は、けたけたと笑う。
 しかし、次の瞬間、ぽつりと思った。
 なんで、こんなことになったんだろう……。
 性器を愛撫する右手を、ふと止めた。
 どうして、自分と涼子の関係は、こんなことになっちゃったんだろう……。
 その答えが、自分でも不思議なくらい判然としなかった。
 涼子に夢中になり始めた頃、自分は、どんな思いで日々を過ごしていたのだったか。
 高校を卒業するまでに、何がなんでも、涼子と仲良くなりたい。進路よりも何よりも、そのことが大事だった。まだ、あと一年ある。しかし、あと一年しかないともいえた。今日も、涼子と話すことができなかった。一日一日が、そうして削られていく、そんな焦燥感を覚えていた。めでたく、涼子と仲良くなるのに成功したら、どうしよう。土曜、日曜も、涼子は、部活で忙しいのだろうか。自分の理想は、休みの日に、涼子と二人きりで遊ぶことだった。邪魔者は、みな消えればいい。涼子が、自分を、どこかに誘ってくれたなら、友達との旅行をキャンセルしてでも、必ず駆けつける。涼子と、ショッピングに行きたい。涼子の服を、自分が選んであげたい。涼子には、きっと、グリーンのスキニーパンツが似合う。なぜか、日頃から、そんな印象を抱いていたのだ。また、逆に、自分の服を、涼子に選んでもらいたい。買い物が終わったら、テラスのあるカフェに寄りたい。適当な飲み物と、それから、お互い違うパフェを注文し、テラス席に着く。涼子は、パフェを一口食べた後、とびっきりの笑顔で、『おいぃっしいっ!』と言うのだろう。その笑顔を見られるだけで、自分は、もう、ほかに何もいらないくらい、幸せな気分に浸れたはずだ。
 本当は……、そういうのを、望んでいたのに……。
 目から、涙があふれ出る。
 自分は、それほどまでに、涼子のことを想っていた。けれども、待てど暮らせど、涼子は、自分にアプローチしてくれなかったのである。
 ひどいよ、南さん……。
 香織は、しゃくり上げる。
 
 そういえば、ずっと前に一度だけ、涼子と、親密になれるチャンスがあったのを思い出す。
 いつもより、だいぶ早く学校に着いてしまった、ある朝のことだ。自分の教室のある三階の廊下で、涼子と、ばったり出くわした。互いに、『おはよう』の挨拶を交わした。そのこと自体が、奇跡のように感じられた。その後、香織だけ先に、教室に入った。教室には、なんと、誰もいなかった。そして、もうすぐ、涼子がやって来るのは、確実なことだった。涼子と、二人きり……。その状況を想像し、気が動転した。気まずい、恥ずかしい、耐えられない。そんなふうに思った。それゆえ、香織は、教室を飛び出して、トイレに逃げ込んでしまったのだった。
 あの時、自分に、もう少し勇気があったなら……。
 いや、そんなことは関係ない。
 問題は、涼子の側にある。
 涼子は、社交的な性格の人間だが、香織は、残念ながら、そうではない。そのため、二人が親密な関係を築けるかどうかは、涼子の行動にかかっていた。涼子のほうから、香織に、がんがん声をかけてくるべきだったのだ。こちらが、ちょっと、うっとうしいなと感じるくらいに。現に、涼子は、滝沢秋菜に対しては、それを行っていたのだから。しかし、香織に対しては、それをしようとはしなかった。なぜか。香織のことを、取るに足らない存在だと見なしていたからに違いない。
 悔しさと怒りで、体が熱くなる。
 許せない……!
 香織は、今一度、滝沢秋菜の体操着をつかみ直し、赤い丸首の部分に、鼻をごしごしとこすり付けるようにして、涼子の臭気を、めいっぱい嗅ぎ取った。それから、性器への愛撫を再開した。先ほどまでより、激しい手つきで。



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