バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第二十一章
邪悪な罠
7



 秋菜が、涼子のほうに戻ってくる。
 それが、何を意味するのか。
 わかっているようで、わかっていないような気分だった。
「吉永さーん、もう、この人のパンツも、脱がせちゃって、いいわけ?」
 秋菜は、能天気な調子で言った。
 涼子は、肉体はおろか、心臓まで硬直するような感覚に襲われた。
「やあぁぁ……」
 唐突に喉がけいれんして、勝手に声が出ていた。

「待ちなよ、滝沢さん」
 香織は、しかし意外な言葉を発した。
「あなたさあ……、自分も、南さんの『仲間』だっていう自覚、ある? なんか、見てると、ずいぶんと澄ました態度で、南さんの服を、脱がしてるけど、そんなんで、大丈夫なの? 次は、あなたが脱ぐ番だってこと、忘れてないでしょうね?」
 涼子は、秋菜の反応に注目した。
「えっ……。あの、待って、吉永さん……。やっぱり、それは、なし、っていうか、計画を、変更して、この女の、一人舞台ってことに、できないかな……?」
 秋菜の顔色が、急変している。頬が、ぴくぴくと引きつっている様まで、目で確認できる。
「なに、寝ぼけたこと言ってんの、あなた……。自分は、南さんのことを、パンツ一枚の格好にさせたんでしょうが。それでいて、自分だけは、脱ぎたくない? いくらなんでも、虫がよすぎるよねえ?」
 それについては、涼子も、香織の発言に同感だった。
「でも……、でもだよ? わたしは……、おしくらまんじゅうで勝ったんだし。そう。こーんな、汗臭い、獣みたいな女と、体をくっつけ合って、気が狂うような思いをしながらも、ちゃんと勝ったの。そのことを、もっと評価してほしい。あと……、そうだ。とにかく、この女を、素っ裸にして、ショーを演じさせようよ。それで、あの、一年生の子が、満足してくれたら、もう、それだけで充分じゃないっ。あっ、わたし、すぐに、もう今すぐ、この女の、パンツを脱がしてやるから、ちょっとだけ待ってて」
 秋菜は、自己保身に満ちた主張をし、即座に、こちらに駆け寄ってきた。
「いやあぁ!」
 涼子は、死神に迫られるような恐怖に見舞われ、思わず走って逃げ出した。
「逃げてんじゃないわよお! 学校から、抹殺されたくなかったらっ、じっとしてなさいよお!」
 秋菜は、吹き荒れるような怒号を浴びせてきた。

「滝沢さん、あなたに、そんなことを決定する権利は、ないの」
 香織が、再度、待ったをかけた。
 秋菜は、ぴたっと足を止める。涼子も、それを見て、逃げるのをやめた。
「それに……、さすがに、冷酷すぎない? ちょっとくらい、『仲間』である、南さんの気持ちも、考えてあげたらどうなのよ? 南さんだって、あたしたちと同じ、年頃の女の子なんだよ? 年頃の女の子が、人前で、パンツを脱がされるのが、どれだけ恥ずかしいことか、それくらいは、あなただって、想像できるでしょう?」
 どういう風の吹き回しか、香織が、まともなことを言い始めた。
「あっ、えっと、それは……」
 秋菜は、右手の人差し指を頬に当て、斜めに視線を落とす。
「あたし、だんだん、南さんが、可哀想になってきちゃった。いくら、おしくらまんじゅうで負けたからって、一気に、パンツまで脱がせるのも、どうかってところだし……。だから、次は、滝沢さん、あなたが、今の南さんと、同じ格好になりなさい。パンツ一枚の格好にね。もし、自分で脱げないっていうなら、今度は、南さんに、滝沢さんの服を脱がすよう、あたしが、命じるから」
 香織は、秋菜の全身を眺めながら話す。
 
 今度は、滝沢秋菜の服を、自分が、脱がす……?
 そのことを思うと、涼子は、今までに感じたことのないような複雑な感情を抱いた。
 秋菜は、中分けのストレートヘアを振り乱し、何度も頭を横に振った。
「いやよっ! わたしには、プライドってものがあるの! たしかに、この女は、吉永さんたちの前では、素っ裸でいるのが、お似合いだと思う。うん、わたしも、心から、そう思う。でも、わたしは、普通の女子高生なの! わたしと、こんな、救いようのないほど惨めな女を、一緒にしないで! わたし……、こんなふうにだけは……、絶対に、なりたくないっ」
 驚き呆れるくらい、涼子のことは、好き放題に言ってくれる。秋菜の発言は、涼子にとって、到底、許せるものではなかった。
 復讐心……。涼子の胸の内に、その感情が芽生え始めた。
 涼子は、秋菜の着ているセーラー服を、ぼんやりと見つめる。
 
 秋菜は、何か思いついたように、さらに続けた。
「あっ、そうだ……。わたしに、この女の、調教を任せてくれない? 言っちゃえば、この女なんて、吉永さんたちの、奴隷みたいなものでしょう? この女が、吉永さんたちの、従順な奴隷になるよう、わたしが、徹底的に躾けてやるから。ねっ? いい案でしょう?」
 もはや、積極的に、加害者側に荷担しようとし始めた。
 涼子は、怒りに歯噛みする。もし、秋菜から一方的に脅迫を受けている身でなかったら、自分は、彼女の頬を、平手で張っていたかもしれない。
 香織も、呆れたように苦笑いした。
「滝沢さんって、面白い人だね……。ある意味、南さんが脱ぐよりも、面白いかもしれない。ますます、滝沢さんが、セクシーショーを演じるところが、見たくなってきちゃった。あたしたち、期待してるよ……。さっ、覚醒剤の件で、退学になりたくなかったら、今すぐ脱ぎ始めて」
 わかり切った答えが、香織の口から返ってきた。
 秋菜の瞳に、絶望の色が表れる。
 きっと、彼女は、涼子が、そうなったように、闇に覆われた光景を、今、目の当たりにしているに違いない。



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