花盛りの被験体
第三章
2



 体外離脱さながら、虚ろな奈々子の胸中で、何かがずきりと疼いた。その痛みは、だんだんと増していき、奈々子の意識を惨憺たる現実に引き戻していく。
 村野由美のことだった。奈々子が、いつも妹のように優しく気を遣ってやり、あるいはまた、奈々子を心から慕ってくれた由美。
 今、由美は、わたしに何をしようとしているのか。奈々子の心を疼かせたのは、そのことであった。
 そうか……。わたしは、これから、由美にアソコを触られることになるのかもしれないな。いや。ちょっと待ってよ。そんなことってありえない。わたし、そんなの耐えられるわけないじゃん……。
 
 感情が、小さな噴水が湧き出るかのように、再び戻ってくる。いや……。やめて。やめて。
「やだよ、やめて」
 奈々子は、ほとんど無意識のうちに呟いていた。全員の注意が、一斉に奈々子に向けられる。
「ねえ由美、やめて」
 もう一度、奈々子は言った。
 それを耳にした水穂の顔に、サディスティックな悦びの色が、みるみると戻っていく。
「さっ、早くしなさい、村野さん。あなたがやるのを、みんな待ってるんだから」
 水穂は、苦しい立場にある由美を急かした。
「すみません。……できません」
 由美は、か細く掠れた声で拒否する。彼女にとっては、持てる勇気をすべて振り絞った、一世一代の反抗というものであったろう。
 
 若干予想外だったのか、水穂は、何も言わずに由美を見つめる。だが、眼鏡の奥の眼差しには、冷酷な光が宿っていた。やがて、ふっと笑うように息をつく。
「どうしても無理なら仕方ないわね。でも……、その代わり、村野さんにも、服を脱いで、桜木さんの隣で四つん這いになってもらおうかな。それで、あなたたち二人の粘液を採取することにするわ」
 要するに、恐ろしく非情な選択肢を突き付けたのだ。由美の顔が、衝撃に歪んだ。
「どうするか決めなさい。あなたも素っ裸で、こんな格好をさせられたいの?」
 水穂は、惨めな奈々子の背中に手をのせ、その脅威を示した。
「ユ・ミー。先生に言われたことできないなら、あんたも服脱いで、ベッドに上がったら?」
 山崎理香が、由美の上着の袖をつかんで邪険に振った。
 
 衣類を脱ぎ捨てることはもちろん、徹底抗戦する度胸など、由美にあろうはずもない。由美には、一線を越えるしか道はないのだった。由美の右手が、そろそろと上がっていく。
 それを見た水穂が、満足そうに頷いた。のっけから、由美がそうすることを確信していたし、また、それを望んでいたという様子である。女教授にとってターゲットは、あくまで奈々子だけなのだ。
「そう……。やっぱり、そっちを選んだのね。そのお手々でやるの? 直に触ることに、どうしても抵抗があるのなら、桜木さんのパンツくらいなら使ってもいいわよ」
 水穂は、この期に及んで二人の友情をからかった。
 
 奈々子の股間へと由美の手が伸びていく途中で、またしても奈々子の声が発せられた。
「由美、お願いだからやめて……」
 奈々子にも、由美が、いわば板挟みの状況になっているのはわかっていた。しかし、だからといって、どうして黙って受け入れることができようか。由美の手で性器を刺激されるくらいなら、死んだほうがマシだという気さえするのに。
 
 だが、由美はこう言った。
「ごめんね、奈々子……」
 その一言に、奈々子は奈落の底に突き落とされた。えっ。うそ……。
 時を移さずして、性器の肉に、さらさらとした冷たい手の感触が走った。性器の表面が、単調な手つきで撫でられ始める。
 それが由美の手であると、脳がはっきりと認識した瞬間、奈々子は、悲しみの細い叫び声を発していた。
 圭子と瞳が、がぜん面白くなってきたという様子で、奈々子の顔に視線を釘付けにした。
 水穂も、すっかりご満悦の表情に戻っていた。彼女にとっては、このフィナーレを迎える前に、極上の慰み者である桜木奈々子に壊れてもらっては、興醒めだったのだろう。恥辱に身悶える奈々子のリアクションを再び見たいがため、妹のような友達である由美を切り札に利用したのだ。その案が、功を奏し始めている状況といえた。

 由美は、自責の念や嫌悪感のためだろう、苦渋に満ちた表情で、右手を動かし続けている。とはいえ、決して陰裂の中には触れず、もっぱら、陰毛の茂る肉の部分と、裂け目からはみ出たヒダの上を、細かく左右に撫でさすっていた。
 由美の手が、幼い子供みたいに小さくてほっそりとしているため、まるでコントラストのように、奈々子の股間の、淫猥さや不潔たらしさが増幅されている。
 
 奈々子は、犬のようにせわしなく息を吐き出していた。性器を由美に触られているという、この世のものとは到底思えない現実。恥辱という熱によって、脳の神経が焼き切れそうだった。
 だというのに、悲しいかな、自分の体内で、女としての生理的な反応が起こり始めていることを、奈々子は、否応なしに自覚させられる。
 
 愛撫が始まってしばらく経つと、性器の裂け目と由美の手が、じんわりとぬめりを帯び始めていた。繊細そうな白い指先が、濡れて陰毛のへばり付いた卑猥な肉の表面を、ぬるぬると滑っていく。



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