堕ちた女体と
華やかな晩餐
第二章
6



 亜希のほうに向き直った瞬間、千尋は、様々な感情の波に、どっと襲われた。
 悲しみや屈辱感、そして羨望もあった。
 権力や財力をバックに、お姫様然としてソファに腰掛け、自室にいる人間を意のままに操れる立場の亜希。かたや、絶対の服従を強いられて全裸になり、膣や肛門まで調べられるという有様の千尋。
 ほんの数ヶ月前まで、千尋と亜希は、大企業の社長の令嬢同士、同等の関係であった。だというのに、今では二人の間に、血も涙もないような主従関係ができあがっているのだ。この、世界がひっくり返ったかのような現実を直視させられ、千尋は、半ばパニック状態にあった。
 わたしが亜希の立場になりたかった……。いや、わたしは、今だって以前と変わらず、なんでも持っているはずなのに……。こんなの嘘よ、悪夢よ。

「千尋ちゃん……。あなたは、適性検査に合格したので、この家で、これから働いてもらうことになります。でも、ちょっと体が不潔だから、うちのお風呂やトイレは使わせてあげられない。納得してくれるよね?」
 まがまがしい話を聞かされて、千尋は、惨憺たる現実に釘付けにされる。
「はい。……わかりました」
 千尋は、絶望に沈んだ低い声で返事した。
「あっ! もしかして、千尋ちゃん、おしっことかは、どうすればいいんだろうって心配してる?」
 千尋は、唇を引き結んだまま、小さく頷いた。
「そんなこと、心配しなくても大丈夫だよっ。加納さん、ちょっと……」
 亜希は、加納の耳もとに、こそこそと囁きかける。何を頼まれたのか、加納は、部屋を出ていった。

 五分ほどして、加納が部屋に戻ってきた。加納は、なにやら、水槽のような透明なガラスの容器を持っていた。そして、薄気味の悪い笑みを浮かべ、こちらに視線を送っている。
「その入れ物が、千尋ちゃんのトイレだよっ。おしっこやうんちは、そこにしてね」
 狂ってる……。千尋は、目を剥いてガラスの容器を凝視した。
「ちゃんと、この便器の中にするんだぞ。外にこぼして、お嬢さまの部屋を汚すような真似は、絶対にするなよ」
「千尋ちゃん。したかったら、してもいいんだよ……。今は平気なの?」
 亜希は小首を傾げ、心配そうな表情を作っている。
 千尋は、無意識のうちに、頭を左右に振る動作を繰り返していた。
「大丈夫、……です」
 尿意は、だいぶ感じていたが、あんな容器になど、どうしてできようか。しかし、いずれ我慢には限界がくる。
 幼なじみの部屋が、千尋にとっては、先の見えない牢獄へと変貌していた。



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