堕ちた女体と
華やかな晩餐
第三章
1



「ねえ、千尋ちゃん……。わたしの家で働くと決まったんだから、それなりに、きちっと身だしなみを整えてもらうからね」
 ゆったりとソファに腰かけている亜希は、全裸で立つ千尋を眺めながら言った。
 身だしなみ……。千尋は、その言葉の真意を計りかねたが、訊いたところで、何がどうなるわけでもない。
「はい、わかりました」
 その刹那、亜希の顔に、不気味な微笑が浮かぶ。
「まず、使用人として働く人が、髪の色を染めてるのは、わたしとしては、あまり気に入らないの。これから黒く染めさせてもらうけど、納得してくれるよね?」
 千尋は、背中の筋肉が、きりきりと引きつるような感覚を覚えた。
 髪の毛のことまで、言い掛かりを付けてくるとは、思いも寄らなかった。おそらく、亜希の頭には、中学校時代の校則か何かのような、規則で縛るという概念が浮かんだのだろう。その真似事をし、また一つ、千尋の自由を奪い取ることで、征服感のようなものに浸りたいだけなのだ。ガキの発想だ。
 千尋は、歯噛みした。あんたは、そんな派手な茶髪をしているってのにね……。しかし、気持ちとは裏腹な答えを返す。
「はい。……だいじょうぶです」
 亜希は、ますます得意気な顔になる。
「それじゃあ、お風呂場に行くから、ソックスも脱いでくれる? あと、そのピアスとネックレスは外してね……」
 その言葉に従い、千尋は、文字通り一糸まとわぬ姿となった。テーブルの上に置いた、お気に入りのピアスとネックレスを、亜希が手に取った。
「千尋ちゃん。こういうお洒落は、ここで働くにはふさわしくないの。だから、当分の間は、わたしが預かっておくよ」
 亜希は、掌にのせたネックレスを蛍光灯の光にかざし、その輝きを眺めながら言った。千尋の細部に至るまで、自由という自由を、すべて奪い取りたいらしい。
 全裸になり、おしりの穴まで検査されたうえ、アクセサリーも奪われ、これから、髪の毛を強制的に染められるのだ。まるで、何の権利も持てない奴隷のよう……。そんな悲惨なイメージが、千尋の脳裏に生まれていた。



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