堕ちた女体と
華やかな晩餐
第三章
2
二階の廊下には、幾つもの部屋が並んでいる。
亜希と加納の、弾むように軽快なスリッパの音が、フローリングの廊下に響き渡る。その中にあって、千尋は裸足で、ぴたぴたと悲しげな足音を立てていた。千尋にはスリッパを履かせないという、亜希のつまらない嫌がらせである。
加納が、突き当たりにあるドアを押して開けた。
そこは、ホテルの大浴場のように広い脱衣所で、奥に、ガラスドアで仕切られた浴室があった。上品なインテリアが壁を彩り、ゴミ一つない白い大理石の床が、蛍光灯の明かりを、きらきらと反射している。
そこに入ると、薄ら笑いを浮かべた亜希が、千尋の前に立った。
亜希は、千尋の首筋に、脈絡なく両手を伸ばしてきた。亜希の指が、肩にかかった千尋の髪の毛を、ゆっくりと掻き上げていく。指の間を流れ落ちる栗色の髪は、乱れながらふわりと落ちた。
千尋は、ごくりと生唾を飲み込む。
「綺麗な髪の色だけどぉ、黒く染めようねっ、千尋ちゃん」
オレンジに近い亜希の髪の色が、千尋には、やけに鮮やかに映った。
「こっちに来て」
亜希は、何気ない素振りで、千尋の肩口にぴたりと触れた。
その瞬間、千尋は身悶えしそうになった。思えば、亜希に裸の体を触られるのは、これが初めてだった。激しい生理的な嫌悪感を覚えたが、今の千尋には、その手を振り払うこともできない。
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