バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
プロローグ〜消えた合宿費
4



 すっかり途方に暮れている時、突然、部室のドアが開いた。びくりとして見やると、明日香だった。
「おーい、あんまり帰ってこないからぁ、心配してぇ、見にきたぞぉー。りょーちぃん、どーしたのぉ?」
 何も知らない明日香は、明るく身振り手振りを加えて訊いた。
 涼子は、答えることができず、ごくりと生唾を飲み込んだ。あれほどの大金を無くしたと言ったら、どのような反応をするだろうか。
「なんでぇ、バッグの中身がぁ、散らばってんのぉ? どーしたの?」
 さすがの明日香も、異変に感づいたようだ。
「お金、……盗まれちゃったみたい」
 消え入りそうな声で言った。目を合わせることができなかった。
 明日香が息を呑む気配を感じる。
「でもっ、でもっ、盗まれたって言ってもさ、りょーちんのバッグに、合宿費が入ってたことを知ってるのは、あたしだけなんだよ?」
 明日香の口調も、もはや、普段のような間延びした余裕はなくなった。
 涼子は、小さく溜め息をついた。
 たしかに言われたとおりだ。盗まれたといっても、状況的に考えれば、あり得ない話なのだ。最悪、自分が疑われても仕方がないかもしれない。集めた合宿費を、涼子が着服しようとしているのではないか、と。
 そう思うと、涼子は、胸が締めつけられそうになった。
「信じて……」
 かろうじて、その一言だけ口にすることができた。
「うーん」
 明日香は、頬に人差し指を当てて唸った。
 
 二人の間に、長い沈黙が降りる。
 涼子には、この金縛りのような沈黙を破る言葉が見つからない。ひたすら、相手の出方を待つしかなかった。
 その時、唐突に、明日香が早口で言い始めた。
「りょーちん、急いで荷物をバッグに詰めてっ。ここじゃあ、いつ誰が来るかわからないから、場所を変えよっ。お金が、全部無くなったことが、みんなに知れ渡ったら大変だから」
 それを聞くと、涼子は、すがるような思いで、マネージャーであり友人でもある明日香の顔を見つめた。普段は、ひょうきんな表情ばかり浮かべる、その人形のような美貌が、今は、冷徹な大人の女性のように、涼子の目には映った。
 涼子は、小さく頷くと、急かされるようにして、散らばっている自分のセーラー服や革靴、教科書、汗取りスプレー等をバッグに入れ直した。



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