バレー部キャプテンと
よこしまな少女たち
第一章〜運動着の中は
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 灰色のコンクリートの壁に背中をもたせかけ、南涼子は、待ち続けていた。消えた合宿費のことで頭が一杯で、時間の感覚があやふやになっていて、地下に着いてから、どれほど経ったのか判然としない。
 さっきまでの練習で、だいぶ汗を掻いており、Tシャツが体に張りついている。涼子は、両肩を抱くようにして考えた。明日香が来るまでに、制服に着替えておこうか。もう今日は、練習をしている場合ではないのだし……。
 そんな矢先、階段の上から足音が聞こえてきた。明日香が戻ってきたみたいだ。
 ふと、違和感を抱いた。足音が一人のものではない。何人かでやって来る。涼子の頭は、たちまち混乱した。
 いったい、どういうこと……。
 
 先頭に立って下りてきたのは、明日香でもなく、バレー部員でもないが、涼子の知っている顔だった。
 クラスメイトの吉永香織である。小柄で、短めの髪を後ろで二つに結んでおり、つり上がり気味の目をした生徒だ。なぜ、香織がここに現れたのか、涼子には、皆目、見当がつかなかった。
 続いて、おそらく後輩だろう、肩の下まで伸ばしたストレートヘアの生徒。わりと綺麗な顔立ちをしているが、意味のわからない薄笑いを浮かべている。
 制服姿の二人が降り立つと、最後に、紺のジャージ姿の竹内明日香がやって来た。

「ちょっと、明日香、どういうことなの……?」
 涼子は、咎めるように言った。
「りょーちぃーん。驚かなくてぇいいんだよぉ。香織はぁ、りょーちんと同じクラスでしょーう? この子にはぁ、生徒会に友達がいるって知ってたから、今回のことぉ、相談することにしたのぉ。合宿費のことはぁ、全部話してあるからぁ、大丈夫だよぉ」
 明日香は、まるで合宿費の件など、もう解決したとでも言わんばかりに、いつもの間延びした口調に戻っている。
「それでぇ、こっちの子はー」
 さらに明日香が続けようとしたところで、香織が言葉を挟んだ。
「あたしの、後輩よ。石野さゆりっていう名前」
 さゆりと言われた生徒は、薄笑いを浮かべたまま、やんわりと涼子に会釈した。
 
 なに……。いったい、どういうこと……。
 涼子の頭では、この状況が、まったく理解できなかった。なぜ、明日香は、合宿費の件を、勝手に他人に話したのか。ただ、生徒会に知り合いがいるというだけの香織に。そもそも、生徒会とバレー部の合宿費に、どのような関係があるというのか。さらには、香織の後輩まで引き連れてくるというのは、まさに意味不明である。
 涼子は、明日香に対して、腹立ちといようより、呆れに近い感情を抱いた。




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